「ここ……は――?」
 目が覚めるとベッドの上にいた。
「気がついたみたいだね」
 ぼぅっとする頭で声がした方を見ると、蒼氷(ソウヒ)がいた。
「ここは……」
緋燿(ヒヨウ)の部屋だよ」
「俺……の……?」
「何があったのか覚えてる?」
「何が……」
 そして俺は思い出した。
「そうだ。俺……白雲(シユク)さんの料理で――」
 青褪める。
「そう。一口でばたんきゅ〜。白雲(シユク)が慌てちゃって大変だったよ」
 蒼氷(ソウヒ)によると俺は丸二日も寝ていたらしい。
「ここに運んでくれたのは?」
「もちろん白雲(シユク)だよ。僕じゃ運べないからね」
 そこで威張られても……ん…………
白雲(シユク)さんって――」
白雲(シユク)はああ見えてかなりの怪力だよ」
 信じられないことを言った。
白雲(シユク)さんが?」
「うん。いつも大量の書類を抱えて廊下を歩いたりしていたからね」
 絶対こけるけど、と蒼氷(ソウヒ)は言う。
「あの…………白雲(シユク)さんは――」
白雲(シユク)緋燿(ヒヨウ)が倒れてからずっと看病をしててくれたんだよ」
 そう言われて気付く。
 額に濡れたタオルがのっている事に。
蒼氷(ソウヒ)は一体何を――?」
「ここでただ本を読んでいただけだよ」
 要するに何もしていないらしい。
「何もしてないけど、一応騒音防止と悪臭防止はしてあげてるよ」
 悪臭…………そうか、俺が倒れたから食事は白雲(シユク)さんが作ってたんだよな…………作って…………
 また失神してしまいそうだった。
 悪臭は分かった。では騒音は――
「騒音って?」
「勿論白雲(シユク)が皿割ったり、物落としたり、いろいろやって空振りしている音だよ」
 ……泣きたい。
 きっと物凄いことになっているんだろうと思う。
 そして蒼氷(ソウヒ)がパチンと指を鳴らすと破壊音と怪しげな臭いが漂って来た。
 途端に顔が引き攣った。
「こ…………この臭いは――」
白雲(シユク)が料理作ってるんだよ」
「料理……」
 いや、あれは料理ではないだろう!
緋燿(ヒヨウ)のために最近は消化にいいものばっかりだよ」
 いつ起きてもいいように気を遣ってくれているらしい。
 だが――
 気持ちだけにして欲しい。

 ――コンコン。

「どうぞ」
 そして入ってくる白雲(シユク)さん。
 相変わらず臭いだけで失神してしまいそうだった。
 白雲(シユク)さんは俺を見て喜んだ。
「良かった。目が覚めないから心配してたんです」
 そう言って手に持っている何かを差し出してきた。
「こ…………これは――?」
 思わず聞いてみる。
 多分聞いても意味はないけど。
「これはトマトリゾットです」
 トマト!?
 どこが!?
 俺は緑色の物体を見て叫びそうだった。
 米が中にあるのかも分からない。
 緑色のドロリとした物体が皿の上に盛られている。
 青汁のようだ……
「どうぞ」
 ちらりと蒼氷(ソウヒ)を見るととても気の毒そうにこちらを見ているが、助けてくれる気はなさそうだ。
「まだ体調が悪いですか? じゃあ、ボクが――」
 そしてスプーンを取り、ふーふーと息を吹きかけて覚ましてからスプーンを差し出してきた。
 物凄い笑顔だ。
 ここに悪意はない。
 それが余計に性質が悪かった。
 そして俺は再びベッドに沈むことになった。