白雲(シユク)さんの作ったカレー(マーブル模様の物体)に二日間寝込み、そしてその後のトマトリゾット(何故か緑色)で七日間寝込んだ。
「平気〜?」
 そう言ってくる蒼氷(ソウヒ)が少し恨めしかった。
「大丈夫なら寝込んでいない」
「だよね」
 俺が二回ぶっ倒れてから白雲(シユク)さんを止めるあたりかなり薄情だが、さらにあの料理を食べたら再起不能になりそうなので助かったといえば助かった。
 これ以上あの料理(と呼べない)は食べられない。
 その際、蒼氷(ソウヒ)白雲(シユク)さんに『食欲ないみたいだからしばらく緋燿(ヒヨウ)の分は良いよ』と言っていた。
 もっと早く言って欲しかった。
 ――が、言ってくれただけマシだと思うことにした。
「はい」
 そう言って蒼氷(ソウヒ)は果物の入ったバスケットをそのまま渡してきた。
 ご丁寧にナイフ付きだ。
 蒼氷(ソウヒ)に皮を剥いてくれるとかを期待してはいけないのだと思っても、ちょっと悲しかった。
 だが、久しぶりのまともな食べ物だ。
 お腹も空いている。
 俺はありがたく頂戴することにした。
 美味しい。
 食べ物ってのは普通はこれだよな。
 俺はしみじみと味わった。
 あの料理を平然と食べられる蒼氷(ソウヒ)は普通じゃないと思う。
 あれを料理と言える白雲(シユク)さんも普通じゃないが――
 体調が治ったら白雲(シユク)さんより絶対に早くキッチンを占拠しなければ……
 俺の身が持たない。
「元気になったら掃除よろしくね」
 鬼のような台詞だ。
「凄いことになってるから」
 ホント、この人何もしないな。
 今も静かなところをみると神術で騒音をカットしてくれているのだろうけど。
 だが、白雲(シユク)さんのあの料理に比べたら、部屋がどれだけ凄いことになっていようとも耐えられる気がする。
 うん、頑張れる。
 俺はそう思ってメロンを切った。
「それにしてもどうやったらあんなマーブル模様の料理が出来るんだ?」
「材料はいたって普通なんだけどね」
 そうだ。確かにキッチンには俺の買ってきた食料と調味料しか置いていない。
 どうやったらあんな……あんな……――
「本当にどうしてまったく毒性のないものからあんなに毒性の強いものが生まれるんだろうね」
 ……俺、よく生きてるよな。
 しみじみとメロンを噛み締める。
 蜜柑、林檎、苺、葡萄、桃、メロンと一通り食べて満足した俺はバスケットを蒼氷(ソウヒ)に渡した。
 蒼氷(ソウヒ)は受け取るとテーブルの上にそれを置いた。
「何か飲みたいな」
「はい」
 渡されたのは透明な液体。
 飲んでみるとただの水だった。
 確かに、俺は酒は飲めないから蒼氷(ソウヒ)が今飲んでいるワインを渡されると困る。

 ――コンコン。

 控えめなノックとともに白雲(シユク)さんが入ってくる。
 俺はちょっと身構えた。
 冷や汗が出る。
 だが、白雲(シユク)さんが手に持っているのはティーセットだ。
「食欲がないとおっしゃっていたので、飲み物にしました」
 そう言って手渡されたのはごく普通の色――琥珀色をした液体――をしていた。
「レモンティーです」
「ありがとう」
 だから俺は安心してしまった。
 それはちゃんと飲み物に見えたから――
緋燿(ヒヨウ)、ちょ――」
 蒼氷(ソウヒ)が何かを言おうとしていたが、俺はそれを聞くことはなかった。
 カラン――
 俺の意識は再び闇に落ちた。