「はぁ……」
 気が進まない……
 だが、やらないわけにもいかない……
 何がこんなに憂鬱かと言うと、危険な書物が大量にあることが判明した書庫の整理だ。
 流石に館内が本で溢れて来たので整理することにしたのだが……
「多過ぎる」
 もう少し自分で片付けるとかして欲しい……
 そう思ってもやりはしないだろう……
 ……まぁ、本当に危険なモノなら俺に触らせたりしないだろうけど……
 それがわかっているだけでも救いか……
 そう思うことにして書庫整理を始めた。
 愚痴っていても状態が良くなることはありえないからな……
 開き直って諦めることにした。
 それにしてもなんでこんなにあるんだよ……
 俺の足もとには大量の本・本・本……
 本で埋め尽くされている。
 この書庫はいっぱいになることはないらしい。
 いっぱいになると階層の中を増やすらしい……
 俺には全く見えないが、その手の術式がそこかしこに施されているそうだ。
 この第一階層だけでもすでに二十階を超えているとか……
 ここもいっぱいになったらまた増やすのだろう……
「そろそろこの書棚もいっぱいだな……………………あっちにはまだ空きがあるか?」
 そう思って歩いていくと――

 ガン……

「――――っぅ……」
 な……何かに当たった……
 いや、前には何もないはずだ。
 前を見て手を伸ばした。

 ぺた。

 なんだ?

 ぺた、ぺた、ぺた。

 ………………………………
「み……見えないのに壁がある――」
 こ……これは一体――
「あれ? 緋燿(ヒヨウ)、こんな所で何してるの?」
「本を片付けてるに決まってるだろ」
 それ以外の何に見えると言うんだ。
「でも、なんかここに壁が――」
「ああ、そこから先へは緋燿(ヒヨウ)は行けないよ」
 …………行けない?
「また、物騒な物が?」
「――っていうか、その先に下の階層に下りるための術式があるから、迂闊に立ち入れないように結界が張ってあるんだよ」
 ああ、なるほど……
「じゃあ、もうここはいっぱいなのか……」
「あれ、もう入る場所ない?」
「ああ」
「じゃあ、碧風(ヘキフ)に協力してもらって階増やさないと――」
 そう言って蒼氷(ソウヒ)は俺が通れなかった場所を何もせずにするりとすり抜けた。
 どうやら力のある者だけを通す仕組みになっているらしい。
「だから書庫整理は中止ね。碧風(ヘキフ)に第三階層に来るように伝えてくれる?」
「ああ、わかった」
「じゃ、よろしくね」
 そう言って蒼氷(ソウヒ)は奥に進んで行った。




 階が増えたのはそれから三日後だった。
 術式は複雑でそう簡単に描けるものではないようだ。
 三日かけて二人が描いていた。
 そして三日後、俺は改めて本の整理をやることになる。