今日も暇つぶしに本を読んでいた。
「あの、蒼氷(ソウヒ)様。床に本を放置すると貴重な本が傷みますよ」
 そう言われて顔を上げた。
 今僕が読んでいるのはそれほど貴重な本じゃない。
 だから別に痛もうが関係ない。
 さすがの僕にも分別くらいはある。
 それよりも、だ――
「…………」
 僕はじっと緋燿(ヒヨウ)の顔を見た。
「その言葉遣い…………」
 僕がそういった途端にびくっとして冷や汗を流し始める。
 僕が怒ると思っているのだろうか?
 心外だ……
 僕はそんな小さな事で怒ったりはしない。
 僕が気にしているのはそんな事じゃない。
「――――堅苦しいからやめて欲しいんだけど」
 むしろ嫌な事を思い出すからやめて欲しい。
 何しろ僕の周りで敬語を使う輩はごまんといる。
 ――いや、敬語を使わない奴がいない。
 敬語は口うるさい同僚と部下を思い出すからとても嫌だ。
 敬語を使う者の中に幼馴染もいるが、彼にやめろと言っても全く聞き入れてもらえなかったのですでに諦めている。
「何間抜けな顔をしているの?」
 何考えてるんだと考えているのが聞こえてくるね。
「ん〜、確かにそういうのに厳しい人もいるよね」
 それの筆頭を思い浮かべる。
黒穢(クロエ)なんかタメ口しようものなら鞭でビシバシ叩くだろうし」
 何しろ彼女の武器は鞭だ。
 そして容赦は――ない。
「でも僕はそういう堅苦しい言葉嫌いなんだよね。もっとフレンドリーにいこうよ」
 そう言って本心を誤魔化しながら言葉の改善を要求する。
「急に言われても無理そうだね」
 でも、僕も諦めるつもりはない。
「でもちゃんとしてもらうから」
 上司の命令は絶対だ。
「僕が良いって言ってるんだからね?」
 たかが、Bランクの死神如きが逆らえるはずは、無い。
 それをわかっていて、言っている。
 緋燿(ヒヨウ)は泣きそうだった。