「ねぇ、緋燿(ヒヨウ)。何か楽しいことない? 退屈なんだけど」
 クッションの上に座りながら不満をぶつけた。
 だって、暇だし。
 やることと言ったら本を読む以外には緋燿(ヒヨウ)で遊ぶしかない。
「俺はこれから仕事だ。邪魔するな」
 だというのに、冷たい。
「仕事〜? 退屈してる上司をほっといて仕事に行くワケ?」
 無理難題を吹っ掛けてみる。
 
 暇だから。
 
「しょうがないだろ! 俺は確かにお前の部下だが死神でもある。それなりに仕事をこなさなきゃいけないんだ。でないと、行き場を失った魂で地上が溢れちまうだろーが!!」
 予想通りの返答でツマラナイ。
 もう少し融通が利けば楽しいのに。
 直接ぶつけてみたいが、そうもいかない。
 
 なかなか難しい。
 
「あー、そっか。死神って人手不足だっけ」
 無難な返答をしておく。
「――つーかヒマならお前も仕事すればいいだろ!!」
 何も知らない彼が放つ一言――
 仕事……か――
 ここにいることが仕事と言ったら彼はどう思うのだろうか?
 ここ以外で生きることさえできないと知ったら……何を思う?
 力を失って以来、満足に生活すらできず、世界のためにここにいるだけの存在――
 今の僕にできることなど何もない。
 
「メンドイ」
 
 でも僕はそれを彼に言うつもりはまだない。
 だから適当に誤魔化す。
 ずっとこういう態度でいたから彼は簡単に誤魔化されてくれた。
 
「あ、そうだ。地上に行くならロマネ・コンティ特級、買ってきてよ」
 
「地下室にたくさんあったヤツはどうしたんだよ!」
 即行でツッコミが入る。
「もうないよ」
 すぐに無くなるに決まってるじゃないか。
 いつも飲んでるんだから。
「俺はそんなヒマもなければ、フランスにも行かない」
 彼はなかなか真面目だ。
 そして、幹部には向かなそうだ。
 誰かの下で働く方が力を発揮しそう。
 まぁ、彼がトップになることはないだろうけど。
 幹部も怪しいけど。
「えー! いいじゃない。買ってきてよ」
 
「断る」
 
 最初のころは畏縮してそんな言葉出なかったけど、最近は出るようになった。
 良いことだ。
 堅苦しい態度でずっといられたら僕の気が滅入る。
 
「じゃあ、どこに行くの?」
 
「カナダ」
「――!!――」
 カナダ!
「アイスワイン!!」
 あれも美味しいんだよね。
 
「買ってきて。いえ、買って来い!」
 
 緋燿(ヒヨウ)はとても渋い顔をした。
「5ダースぐらい欲しい」
「無理だろ、それは!」
 緋燿(ヒヨウ)ってツッコんでばっかりだよね。
「死神でしょ。何とかして」
「うぐっ――」
 顔が引き攣った。
 ここでしっかりと断らないから幹部に向いてないんだよね。
 文句言いながらも結局は流されてしまうタイプだよ。
 ぶつぶつ文句は言っていたけど、結局買ってきてくれる。
 あの程度の言葉じゃ駄目だね。
 もっとしっかりキッパリすっぱり断らないと。
 断り方がなってない。
 
 
 
 こうして緋燿(ヒヨウ)はちゃんとアイスワインを買ってきてくれた。