今、緋燿(ヒヨウ)は買い物に行っている。
 ワインが無くなったので買ってきてもらうためだ。
 こういう雑用も嫌そうにしながらも結局従う緋燿(ヒヨウ)はお人よしだ。
 さて、そろそろ彼の勉強についても考えないといけないんだけど……
 
 何からとりかかるべきか……
 
 僕は昔から本を読むのが好きだったし、知識を得るのも好きだったから勉強で困ったことってないんだよね……
 
 そんな僕が人に教えられるだろうか?
 わからないということにならないか?
 
 充分ありうる話だ。
 
 昔講義をしたことあったけど……
 初心者には向かないねって言われたし……
 
 僕の話は玄人向けらしい。
 だから考えちゃうよね……
 
 ……とりあえず、テキストやっててもらう?
 
 葬送部用のテキストはもう発注してあるから書庫にある。
 あれを渡して勉強してもらうか……
 一般教養もテキストはあるんだよね……
 
 分からないところを教えればいい?
 
 悩みどころだ。
 よく言うよね……頭のいい人は教えるのに向かないって――
 
 どうしようか……
 
 僕がそんな微妙な問題を考え込んでいると、緋燿(ヒヨウ)が帰ってきた。
 荷物満載。
 
「ワイン買ってきてくれた?」
「ああ」
 荷物を全部降ろすと、大仰に溜息をついた。
 
 重かったらしい。
 
 緋燿(ヒヨウ)って……
 
 前から思っていたことだが、緋燿(ヒヨウ)は重さを緩和する神術を行使できないようだ。
 不便じゃないのだろうか?
 僕だったら不便だ。
 
 ……いや、僕は今現在、全てにおいて不便だが――
 
 まぁいいや。
緋燿(ヒヨウ)
「何だ?」
「書庫に勉強用のテキストが山積みされているから自室に持って帰ってね」
 それを聞いた緋燿(ヒヨウ)の顔が引き攣った。
「テキスト……」
「そうだよ。何のためにここに来たのかわかってるでしょ?」
 わからないはずはないよね。
「ああ」
「僕は教えるのは多分得意じゃないから、テキストだけ取り寄せたんだよ」
「そうなのか?」
「僕は勉強で困ったことなんてないからね」
「くっ――」
「だからとりあえず自分で勉強して分からないところは質問して」
 
 これなら大丈夫だろう。
 
「わかった?」
「……わかった」
 
 どんよりした空気を漂わせながら再び荷物を持つとワインを置きに行った。
 帰りにテキストを持ってくるのだろう。
 大変だろうけど、しょうがないよねぇ……
 
 僕は全く人ごととして処理した。