テラスで寛いでいると、何やら黒い気配を感じた。
 とてつもなく、イヤな予感がする。
 
  ――というか、気配かな。
 
 しかたなく……しかたなく、見に行くことにする。
 緋燿(ヒヨウ)じゃ対処できないだろうし。
 エントランスに向かっていると、何やら騒いでいる声が聞こえる。
 
 よく見なくても、黒い気配のもとがいた。
 
 緋燿(ヒヨウ)が困っている……ようだ。
 まぁ、しかたないか。
 
「何騒いでいるわけ?」
 
 僕が声をかけると、困ったような顔をした緋燿(ヒヨウ)と目が合った。
「あ、蒼氷(ソウヒ)……様」
 人間がいるためか、敬語で話す。
 
 そんなヤツ、気にする必要は全くないのに。
 
「ああ、もしや貴方様が知識と生命の神様ですか!?」
 そう言って僕に近づこうとした愚者を緋燿(ヒヨウ)が掴んで止めた。
 さすがに拙いと思っているらしい。
 こういうヤツらって人の話を全く聞かないからね。
 それに、話しても、無駄。
 ならば、やることは一つ。
 
「テラスに連れて来て」
 
 僕はそう言うとテラスに戻った。
 後ろで言われたとおりにする緋燿(ヒヨウ)
 自分で対処できないだろうから、言われたとおりにするしかないよね。
 
 
 テラスに着くと僕は緋燿(ヒヨウ)が封じた扉を開放する。
 
「真に望む者……我が名【蒼氷(ソウヒ)】の名のもとに道を開け」
 
 中から出てこれないように結界が張られる。
 そして扉がゆっくりと開く。
 
 漆黒の闇は、地獄への扉――
 
 そして僕は緋燿(ヒヨウ)が連れて来た愚者に告げた。
「貴方の望むものはここにはない」
「そんな!!」
「望むなら先へ進むがいい」
 
 欲に目がくらんだ人間は愚かだ。
 何も考えることなく中に入る。
 この扉を長時間開けていると僕にかかる負担も大きいためとっとと入ってくれる方が助かると言えば助かる。
 
「道は閉ざされ、望みは断たれる」
 
 大きな音を立てて扉が閉じる。
 これで厄介事は消えた。
 
「忌まわしい下衆の魂が……ウザイったらないね」
 
 気分が悪くなる。
 本当に、どうしようもないヤツらは存在する。
 絶えることのない愚者の対応なんて――
 
 メンドウ以外の何ものでもない。
 
 僕はそれを改めて感じた。