今日は僕の大好きなワインと美味しそうな料理が並んでいる。
「今日は随分豪華だね」
「そうだな」
 まぁ……魂胆なんて丸わかりだけどね。
「ふふ…………聞きたいことがあるようだね」
 ギクリと、肩を揺らした。
「あの愚者のことでしょ」
 僕が話しかけるとばつの悪そうな顔をした。
 
 僕が怒ると思っているんだろうか?
 
「いいよ。教えてあげる」
 さすがにそんなことで緋燿(ヒヨウ)に八つ当たりしたりはしない。
 それくらいの分別はあるつもりだ。
 
「このワインに免じて」
 
 でも誤魔化すのは忘れない。
 呆れた顔をしてくれた。
 緋燿(ヒヨウ)は結構単純だ。
 簡単に誤魔化されてくれる。
 
「あれは…………ここに来る人は一体何なんだ?」
「あれはね……妄執や欲望に塗れた愚かな人間の末路」
 
 僕はワインを一口飲んだ。
「そういう人間は何をするのか分からないところ、あるでしょう?」
 良く分かっていなそうな顔だ。
「そういう人間は怪しい儀式を行い、根性でここに来るんだよ」
 僕の言葉に驚きの声を上げる緋燿(ヒヨウ)
 
 そうだよね……驚くよね……
 僕も初めて見た時はとても驚いたよ。
 
「ここにはそういった魂が辿り着く」
「どうしてここに?」
 ああ、緋燿(ヒヨウ)はここが何か知らないのか……
「ここは特異点だからね。そういうのが集まりやすいんだよ」
 
 迷惑な話だ。
 
「そういう愚者は執行部か制裁部に引き渡さないといけないんだけど、これがまた面倒なんだよね」
 なんで僕がそんな面倒な事をしないといけないんだよ。
「愚者の魂五月蠅いし」
「それにここからだとどっちも遠いから碧風(ヘキフ)黒穢(クロエ)に頼んでも粛神や鬼神が派遣されてくるの待たないといけないし、それまであの鬱陶しいの見張ってないといけないんだよ」
 
 腐った魂の相手を延々とするなんて……冗談じゃない!
 物凄く、イヤだ。
 断固、拒否する。
 
「だから碧風(ヘキフ)に頼んで地獄直通の扉を作ってもらったの」
 力を失っている僕でも開けて閉められるようにいろいろ工夫してくれた。
 碧風(ヘキフ)に感謝だね。
「正式名称は“制裁の扉”。
 あれが出来たおかげでみんな楽になったよ。
 粛神と鬼神を派遣しなくて良くなったし。
 どうせこんなところに来る魂は地獄逝き決定だからね。あれ開けて放り込んだ方がお互い楽できて良いんだよ」
 誰にとっても良いことだ。
緋燿(ヒヨウ)もあれが来たときはまともに相手しなくていいからね。相手にするだけ時間の無駄だから」
 
 むしろ僕が相手にしたくない。
 
「制裁の扉はここに来た愚者を地獄に落とすためだけにある」
 
 それ以外の用途に使うつもりは全くない。
 
「人の欲は限がないから、これからもあるだろうけど――」
 
 そこまで言ってゲンナリした。
 
「どうしてあんな罪深きものを作るのか……」
 
 理解できない。
 
「この話はこれでもうお終い。
 これ以上話してもワインが不味くなるだけだしね」
 僕はあんな輩の話をこれ以上したくない。
 気分が悪くなってくる。
 
 ホント……根絶してくれないだろうか?
 
 僕は絶対に有り得ないことを願ってしまった。