体調が悪い時の白雲(シユク)の料理は思った以上に身体に障ったのか、次に緋燿(ヒヨウ)が目覚めたのは七日後だった。
「平気〜?」
 そう声をかけると恨めしそうな視線で言われる。
「大丈夫なら寝込んでいない」
「だよね」
 僕は目覚めた緋燿(ヒヨウ)にまた料理を渡そうとした白雲(シユク)を制した。
 理由は、食欲がないから。
 事実は言えなかったね。
 そのおかげで取り敢えずまた倒れるような事態にはならなかった。
「はい」
 果物とナイフを緋燿(ヒヨウ)に渡す。
 言っておくが、これは僕が用意した何の変哲もない果物だ。
 だから食べても大丈夫。
 緋燿(ヒヨウ)白雲(シユク)の料理よりは遙かにマシだと思っているようで何も言わずに自分で皮を剥いて食べている。
「元気になったら掃除よろしくね」
 病人にこんなことを言うのはアレだが、しょうがない。
「凄いことになってるから」
 すでに館の中は惨状だ。
 
「それにしてもどうやったらあんなマーブル模様の料理が出来るんだ?」
 
 疑問に思ったのか、尋ねられた。
 
「材料はいたって普通なんだけどね」
 
 変なモノは一切使っていない。
 大体、材料を用意したのは緋燿(ヒヨウ)だ。
 変なものであるはずがない。
 
「本当にどうしてまったく毒性のないものからあんなに毒性の強いものが生まれるんだろうね」
 
 これだけは本当に原因不明なんだよね。
 僕でさえあれの原因は理解できない。
 一体何が原因であんな劇物が――
 
 そう思っていると果物を返された。
 食べ終わったようだ。
 
「何か飲みたいな」
「はい」
 
 僕は間髪いれずに水を渡した。
 
 緋燿(ヒヨウ)は残念なことに酒に弱いので僕が今飲んでいるワインを渡すわけにはいかない。
 飲めれば水じゃなくてコレ、渡したのに――
 そう思っていると、ノックが聞こえた。
 
 
 ――コンコン。
 
 
 白雲(シユク)が来たようだ。
「どうぞ」
 返事をすると控え目に扉が開き白雲(シユク)が入ってくる。
 手に持っているのはティーポット。
 
 まさか――
 
「食欲がないとおっしゃっていたので、飲み物にしました」
 
 やっぱり……
 まずいなぁ……
 
「レモンティーです」
「ありがとう」
 
 そう思っている間にも会話は進んでいく。
 
 見た目はごく正常なそれに緋燿(ヒヨウ)が疑問を持つことは、ない。
 故に、安心したような表情でそれを口につけた。
 
緋燿(ヒヨウ)、ちょ――」
 
 カラン……
 
 カップが床に落ちる。
 あちゃー。
 間に合わなかった。
 
「え? ひ、緋燿(ヒヨウ)!?」
 おろおろする白雲(シユク)
 それを見て思わず溜め息が出た。
 白雲(シユク)が入れたものを飲むなんて――
 そうは思ったが、見た目が正常なのだから仕方がないのかとも思う。
白雲(シユク)
「は、はい」
緋燿(ヒヨウ)は僕が見ておくから、掃除をお願いね」
「え?」
 僕と緋燿(ヒヨウ)をおろおろと見比べていたが、やがて頭を下げた。
「じゃあ、お願いします」
「うん」
 部屋を去っていく白雲(シユク)を見ながら思う。
 
 これは、僕の説明が悪かったのか?
 緋燿(ヒヨウ)にはきっちりと話して聞かせる必要があるようだ。