白雲(シユク)の料理は凄い。
 何が凄いのかというと全てだ。
 白雲(シユク)が調理すると唯の材料が不可思議な進化を遂げる。
 同じ材料で作っても同じ作り方をしてもどうしてか、ああなる。
 そう、あの白雲(シユク)の料理はどう頑張ってみてもどうにか出来るようなレベルの代物ではない。
 なんせ理解不能だ。
 僕が作ってもまずくなるだけだけど、白雲(シユク)は違う。
 見た目も何かの実験のごとく変容する。
 どうしてあの材料から着色料も使用していないのに青くなったり緑になったり紫になるのだろう?
 そしてどうしてあの料理に白雲(シユク)は疑問を持たないのか?
 なんせ見た目からして普通ではない。
 理解してくれたら被害者はいなくなるだろうに。
 だが、現実は厳しい。
 勿論僕ではなく緋燿(ヒヨウ)にだ。
 なんせ僕はあれを食べても平気だ。
 被害は緋燿(ヒヨウ)のみに絞られる。
 哀れだが、仕方がない。
 そして諦めきれない緋燿(ヒヨウ)白雲(シユク)と一緒に料理を作っている。
 側にいればどうにかなると思っているのだろうか?
 はっきり言おう。
 
 無駄。
 
 側にいて、作り方を指導したって、マトモなモノからあれが出来上がるんだから。
 それに出来たものは自分の口に入るんだよ?
 緋燿(ヒヨウ)がまた倒れるよね。
 全く。
 白雲(シユク)の料理をなんとかするという無駄な努力をするくらいなら白雲(シユク)に料理を作らせないようにする方が余程建設的だ。
 そう思いながら僕は手に持っていた本を閉じた。
 緋燿(ヒヨウ)が無駄な努力を始めてから約一時間。
 そろそろ現実を思い知るはずだ。
 そう思ってキッチンに向かった。
 
 
 
 そして――――予想通り、燃え尽きている緋燿(ヒヨウ)がいた。
 
「無駄だと、理解した?」
 
 緋燿(ヒヨウ)は本気で泣いていた。
 神様も諦めは肝心だよ。