外に出るとそこは先程より酷い惨状だった。
魔物の死骸も多くあるが、その中に天使達の遺体も多くある。
心が悲鳴を上げた。
ここは――戦場だった。
そしてその場を駆け抜ける。
勿論
だから手を引いて逃げるしかなかった。
周りでは天使達が必死で戦っている。
護衛天使は勿論、階級天使や戦闘にはあまり向いていない守護天使達も戦っていた。
この状況では、誰であろうと戦わないわけにはいかない。
そう…………たった一人を除いて――
天使たちは皆、
そう…………全ては水の最高神、
まだ安全な場所を聞いているのか、被害状況を聞いているのかは
でも、皆が皆、こう言う。
『どうかご無事で――』
それが
しばらく走っていると、急に周囲の気温が下がったような気がした。
そして尋常じゃないほどの邪気と瘴気を感じた。
「ちっ――」
普段、けしてそんな行動をしない
理由は
「ケタケタケタ……」
目の前で嫌な笑みを浮かべている…………醜悪な存在。
魔族に対するものだと――
「ミズノカク…………ミツケタ……」
それは
確かに、
それが解っているからこそ、魔族は
「
「
魔族はとても強い。
だから、簡単に倒せるとは思っていない。
それでも、倒さなければならなかった。
倒さなければ、
それだけは避けなければならない。
この状態の
魔族の放つ紋章術をかわし、素早く斬りこむ。
ガッキ――ン!!
魔族の鋭い爪がそれを防ぐ。
そこに
力の出し惜しみなどしていられない。
この戦闘が長引けば長引くほど、
それだけは避けなければ……
その想いが
そう…………全ては最愛の主のために――
その為に剣を振るう。
主のためなら…………どんな事でも――
自分がどれだけ傷ついても、厭う事無く。
戦う力のない
だが、もうこの
どこもかしこも魔物でいっぱいだ。
それなのに……そんな状況だからかもしれないが、
地面に座り込み、何故――と、どうにもならない事ばかりが思い浮かぶ。
カサリ……
側の茂みが揺れた。
側に、
でも、彼は
それが、
「えっ…………――」
何が起こったのか解らない
――赤かった。
「――…………!!」
唐突に理解した。
これは血だと――
では、誰の――
見たくない…………
見たくないが、顔を上げた。
そこには、魔物から
「どう…………して…………――」
かろうじで出した声はちゃんとその天使に聞こえていたのかは解らない。
でも、彼は言った。
「お逃げください…………
笑っていた。
だが、それは…………とても儚い笑みだった……
ビシャァ――――
鋭い爪が天使を引裂いた……
目を…………離せなかった……
その天使の血が、
赤い血に染まった鋭い爪が自分を狙っている。
「くっ…………
魔族と戦っていた
魔族は大分傷を負っているようだが、あの程度ではすぐに回復してしまうだろう。
だが、そんなものよりも
敵に背を向けた事で鋭い一撃が走る。
それは
そんな事を気にも留めずに
そこにまだ無事な天使達が集まってきた。
「
「何、我々でも少しぐらいなら時間稼ぎぐらいは出来ます」
――どうしてみんな……
――僕を助けようとするの――?
――イヤ……
――ヤメテ…………
自分では、どうする事も出来ないモノのために――
もう自分では何を考えているのか解らなかった――
「頼む」
血の海となった
衝撃音や悲鳴は否応なく耳に入ってくる。
駆け抜けていく時に、天使達と、魔物の間を縫うようにして行った。
庇われたのも一度や二度ではない。
その度に外套は血で濡れていった。
それは、まるで命のように重かった……
そしていつしか人気の無い森の奥へとやって来た。
「もうすぐです。
力を失った
二人は森を抜け、立ち入り禁止区域まで来た。
立ち入り禁止区域とは、崖になっており、地盤が緩い為にそう指定されている場所だ。
そういう場所まで来なければ地上に降りれない。
だが、何時だって物事はそう上手くはいかない――
辺りにこれまで感じた事のないほどの醜悪な邪気と瘴気が満ちる。
魔族だった……
空間が歪み、魔族が現れる。
冷や汗が出た。
目の前には六人の魔族がいた。
「ココニイタカ……」
逃げ切れない――
「
それは、とても静かな声だった。
「え?」
「私一人では貴方を守りきれません」
「――!!――」
「早く! 行ってください!!」
「――――
「みんな……――」
壊れたように呟く
でも、ここで
そこに広がっているのは青い空。
「…………申し訳ありません、
そう言って
「
「本当に…………御無礼をお許しください」
「え?」
「お元気で――」
どんっ!!
次の瞬間、物凄い力で突き飛ばされた。
「
手を伸ばすがけして届かない。
「
お元気で――
それが
遠くなっていく
そんな中でただ思った。
――どうしてこんな事になってしまったんだろう……
――どうしてみんなここまでしてくれるんだろう……
――どうして僕はこんなにも無力なんだろう……
そう思っている間に
この状態は非常に危険だった。
落下地点が安全とは限らない。
水の上……海ならまだしも、陸に落ちたらただでは済まないだろう。
しかし、無常にも大地は迫ってきた。
そこは雪深い森の中――
かなりの高度から落ちたにもかかわらず、雪がクッションになったために無傷で済んだ。
雪が……
雪も元を辿れば水だ。
――全て思い出した……
――どうして忘れていたんだろう……
――けして忘れてはいけない……
――イタミのハズだったのに…………