「どうなさいました? アウイン様」
「エルバ……」
アウインと呼ばれた青い髪の女性はゆっくりと振り向いた。
「何かありましたか? もし何かあったのでしたらお話ください。
私はそのためにいるのですから
「そう…………そうね――」
「本当にどうなさったのです? アウイン様」
アウインは目を伏せた。
「とても…………イヤな感じがするの――」
「嫌な感じ…………ですか?」
「そう…………何かが起きそうな……そんな感じ」
アウインは自分の身体を抱き締めた。
「マナが…………マナが死んでしまう前もこんなイヤな感じがしたわ」
「オルクス=マナ様――」
アウインはとても悲しげに目を細めた。
「もう…………マナはいない……………………精神の象徴であったマナは…………もうどこにもいない――」
マナがいなくなった時のことは今でも鮮明に覚えている。
そして、彼の願いも…………けして忘れる事が出来ない。
いや、けっして忘れたりしない。
マナの事は、けして過去の事にしたくなかった。
そんな自分がいることにアウインは気づいていた。
寂しかったのは、つらかったのは自分だけではない。
彼の双子の妹…………物理の象徴であるエーテルも何度も彼を止めようとした。
でも………………………………駄目だった。
彼の願いはとても強いものだったからだ。
レッドベリルは………………マナととても仲が良かったレッドベリルは、何も言わなかった。
何か話して、引き止めると思っていたアウインは随分と面食らったのを覚えている。
でも……今にして思えば、レッドベリルはわかっていたのかもしれない。
レッドベリルはマナの一番の理解者であった。
だから引き止めなかったのだ。
アウインはそう思っていた。
そして思いを馳せる。
今、何処かにいる兄の事を――
アウインはレッドベリルが何を考えているのか、わかったことは一度としてない。
兄妹であり双子である、片割れである兄の考えがわかったことはないのだ。
いつも何を考えているのか、何を望んでいるのか…………わからなかった。
――それはマナに関しても同じだった。
あの二人は考え方がとても近かったのかもしれない。
「お兄様がいなくなった時も…………こんなイヤな感じがしたわ」
レッドベリルは何も言わずに消えた――
「フェナカイト=レッドベリル様………………もうずっと音信不通ですね」
「ええ……――」
どこで何をしているのかもわからない。
存在している事は確かだけど、何を思い、どうしているのかは全くわからない。
「マナが……マナが生きていれば……………………変わっていたかもしれません」
レッドベリルが消えたのはマナが死んでからだった。
マナがいなくなり、それをきっかけにしたかのようにレッドベリルも姿を消した。
そして六創神は今のようにバラバラになった。
「お兄様――」
レッドベリルは何かを知っているのだろうか……
「アウイン様……」
「お兄様なら…………こんな不安を感じる事はないでしょうね。きっと、お兄様には理由がわかるもの」
何もわからない自分が歯がゆかった。
「何か起きるわ…………きっと、とても大きなことが――」
「何か大きなこと?」
「ええ…………でも、わたくしには何が起こるのかはわからない。
お兄様なら……きっとわかっているでしょうけど――」
自分の無力さがとてもイヤになる。
「せめて…………せめてこれ以上悲しい事が起こらないように、祈るだけです」
――無力なわたくしに出来るのは……
たったこれだけ――――
アウインは瞳を閉じて両手を合わせて祈った。
悲しい事が起きないように――