クラウスはぎゅっと
「
便利でしょ? と
「さぁ、旅立ちの時間だよ。クラウスの側にみんな立って――」
言われるままにクラウスの側に立つ三人。
「クラウス、目を閉じて話しかけてみて――目的地は
クラウスは言われるまま目を閉じた。
――
〈――狭界ガ一ツ、
………………………………………………………………座標〇〇一五〉
そしてクラウスは印を組む。
…… η ο τ τ δ ε ς υ β ε ς ς α υ ν θ ε ς ς σ γ θ τ θ α τ ν α γ θ τ ζ α θ ι η ø υ σ ε ι ξ α μ μ ε χ ε μ τ ι ξ φ ε ς β ι ξ δ υ ξ η ø υ β ς ι ξ η ε ξ υ ξ δ θ α τ δ ι ε ν ι τ τ ε μ δ ι ε ζ ς ε ι ε ι ξ ε δ ι ν ε ξ σ ι ο ξ β ε χ ε η ε ξ λ ο ξ ξ ε ξ
それに合わせてベルトにつけた
―― 空間を支配する神の
足元に陣が敷かれ、空間が歪む。
「良い旅を――」
そう言って
そしてその場から彼らの姿が消える。
「どうか…………彼に幸のあらんことを――」
ふわりと降り立つ。
アスモデウスの時のように空中に投げ出されたりはしない。
ちゃんとした道具があるとやはり違う。
そして辺りを見まわした。
周囲が星空なのは
日の当たりそうな感じがしないのも全く同じだ。
ただ、地面には様々な種類の植物が生い茂っている。
遠くには樹木などもたくさん生えている。
反対側には小高い丘がある。
水音もすることから川も流れているようだ。
遠くに石造りの建物が見える。
その側にはむき出しの大地。
ざっと見たところ、ここは
しかし、自然をぎゅっと凝縮したようなこの場所は、クラウスにはひどく不自然なものに見えた。
「自然が豊かな良い場所ですね。空気がとても美味しいです」
「それは嬉しいです」
その声は唐突に、後ろから聞こえた。
ばっと振り向くと、そこにはパタパタと羽を動かして浮いている若者がいた。
しかし驚いているのは
どうやら気付いていなかったのは
「お主が
「フーの推薦で来たんだ。確かに、私がこの
空中に浮かんだまま、ぺこりと挨拶をした。
随分と器用だ。
「ところで、葉が痛むから踏まないで欲しいんだけど」
そう言ってカルナはクラウス達の足元を指差した。
「ああ悪い」
その言葉に、カルナと同じように宙に浮く四人。
「ここにあるのは大事な材料だからね」
地面に生えている植物の葉を空中に浮いたままナイフで切り取っている。
やはり、かなり器用だ。
「『フー』って
「うん。そうだよ」
あっさりと言うカルナ。
返事をしつつも作業はやめない。
わりとマイペースな人だ。
「フーか…………それはいいね。今度から僕もそう呼ぼうっと」
何故かカルナの呼び方が気に入ったらしいアスモデウス。
それにレヴィアタンが一言。
「アスモデウスは二文字以上の名前は愛称で呼ぶことにしておるからのう」
面倒くさがりやだから、とにべも無く言う。
「二文字以上って……」
「名前二文字の人って割合的にはかなり低いんじゃ……」
それを聞いた
「いいじゃない。
そうだ! クラウスと
「俺の名前は短い部類に入るんじゃないのか?」
「僕は三文字なので絶対短いと思います」
そんな二人を他所にアスモデウスは考え始める。
「う〜ん……………………」
「まぁ、諦めるんじゃな」
言うだけ無駄だとレヴィアタン。
確かにと、アスモデウスを見つめる二人。
「クーとカイにしよう」
ね、とアスモデウスに言われてとりあえず頷く二人。
「ところで貴方達はここに何をしに来たの?」
植物採取が終わったカルナが尋ねた。
「話すと長くなるんだけどね――」
それを聞いたカルナはアスモデウスの言葉を制した。
「じゃあ移動しよう。疲れるし」
汗一つかいていない上に涼しい顔でそう言われても本当にそう思っているのかわからない。
でも確かにいつまでもこうして飛びながら話す事でもないので素直にカルナに従う事にする。
建物には蔦がたくさん絡みついている。
金持ちの豪邸みたいな感じだなと、クラウスは思った。
だが建物の中に入ってその見解を改める事になる。
外の見た目と中は全く違った。
中は不思議なもので溢れていた。
「変わったものがたくさんありますね」
「全部私が創ったものですよ」
「マナの密度が濃い――」
クラウスは目を閉じた。
アスモデウスとレヴィアタンは置物を手に取った。
「マナで創ってるんだ」
「なるほど、さすがは創成神じゃな」
「たいしたことではないよ。さぁ、こちらへ」
そう言ってカルナはリビングに案内した。
そしてお茶を入れ始めるカルナ。
それを見たクラウスは先ほどから感じている疑問をぶつけてみた。
「ここにはカルナ以外に誰もいないのか?」
「ええ、ここは私しか暮らしていないよ」
カルナはハーブティーを差し出しながら答えた。
「ここは私の趣味の空間だからね」
邪魔をするものは誰もいないと言う。
「それで、ここに来た理由を改めて尋ねても良いかな」
「ああ、それは――」
レヴィアタンが詳しく説明をした。
アスモデウスは面倒なのかあまり口を挟まなかった。
「なるほど……レッドベリル様に会いたいと――」
「いそうな場所知ってる?」
「私はしばらくここから出ていないからわからないよ。そちらの方では力になれそうにないね。
でも服の方は大丈夫。ちゃんと作って上げるよ」
ちょっと待っててねと、カルナは部屋を出て行った。
でもすぐに戻って来た。
手に小さな機械を持って。
「計測器か?」
「うん、そうだよ」
ちょいちょいと手招きされてクラウスは背筋を伸ばして立つ。
パチリ。
「ありがとう。これでデータはバッチリ。それでは、貴方達も――」
そう言ってカルナは全員のデータを取り終えるとメモ帳を片手にデータを書き込んでいく。
「貴方の服は元からかなりの力を込められたものみたいだけど、強化して上げようか?」
カルナはクラウスの服を見てそう言った。
「出来るのか?」
「私は創成のカルナ。このくらいのことなら問題なく出来るよ」
当然といった感じに胸を張るカルナ。
「じゃあ頼む」
「あとは予備の服の製作だよね」
「ああ。それからこれを左足にとり付けるためのホルダーを作って欲しい」
「ああ。これをとり付けるの」
カルナはクラウスと製作する服についていろいろと話をした。
クラウスと話が終わるとアスモデウス、レヴィアタン、
「じゃあオーダーの最終確認をするね」
「ああ」
「クラウスは今着ている服の強化と新しい服一着。左足に
紋章術師だから服のデザインは多少動きにくくても可――――だよね」
「ああ、それで頼む」
「アスモデウスは新しい服二着。服のデザインは今と同じような感じで、服の素材は
「うん、それでお願いするよ」
「レヴィアタンは新しい服二着。デザインは今とほぼ同じ。細かいデザインは問わないけど、なるべく軽いもの――――だよね」
「うむ、そのように頼む」
「
「はい、お願いします」
それを確認し終わると、カルナは立ち上がった。
「クラウスは着替えが必要だよね。私の服を貸してあげるよ。こちらに来て」
そう言いながらクラウスをがしっと掴んでずるずると部屋から連れ出した。
それを見送ったアスモデウスは不吉なことを言う。
「大丈夫かなぁ、クー」
「え?」
今の会話の流れからどうしてその言葉が出てくるのかわからない
「着替えるだけですよね?」
「うん。そうだけどさぁ…………」
アスモデウスはそれに頷きつつも歯切れ悪く言った。
何か含みのある言い方だ。
「
「はい」
それを見かねたレヴィアタンがアスモデウスの要領を得ない会話を補足する。
「クラウスとカルナの背丈をどう見た?」
「背って………………………………あっ――」
そして気付く。
「カルナさんの方が…………大きかったです」
「引き摺るよね〜、間違いなく」
「クラウスは体格はまあ普通じゃが、背丈は若干低めじゃな」
「カルナってレヴィくらいあったから…………約二十センチメートルぐらいの差があるね」
「アスモデウスより若干低めじゃしな」
クラウスの身長は百七十二センチメートルだ。
標準よりやや低い。
クラウスより高いというアスモデウスも百七十五センチメートルしかないので、あまり変わらない。
体格もほとんど変わらないので、似ていると言えば似ているだろう。
そしてレヴィアタンは…………でかい。百九十三センチメートルもある。力を封印され、小さくなった
子供の姿をしている
これはまぁ、しょうがない。
まあ、もともとの姿ではないから身長の事はあまり気にはならないが……
クラウスとアスモデウスの身長はこれ以上は伸びないだろう。
アスモデウスの成長期はとっくに止まっているはずだし、
まあ、クラウスもアスモデウスも身長にコンプレックスは全く持っていないようだが。
そうしてしばらくして帰って来たクラウスはアスモデウスとレヴィアタンの予想通り、服の裾を引き摺っていた。
「思ってたほど酷くはないね」
その姿を見て一言。
「クラウスさんは術者なのでそんなに違和感はないんじゃないですか?」
それを聞いたクラウスは溜息をついた。
「カルナが俺が来ても変じゃない服を貸してくれたんだよ」
「でもさ、クー手が出てないよ」
アスモデウスの言うとおり、クラウスの手は服に隠れていた。
「しかたないだろ」
長いからといって袖をまくるわけにはいかない。
「それで、カルナは?」
戻ってきたのはダボダボの服を来たクラウスだけだ。
「外に出て行ったぞ」
「外?」
「材料集めだと言っていた」
「――客すっぽって?」
さすがのアスモデウスもこの行動には驚いたようだ。
「客室なんかないから、その辺のソファーで寝てくれってさ」
「ホントに自分だけの空間なんだ――」
呆れるアスモデウス。
その横でレヴィアタンが身体が硬くなりそうだと愚痴っている。
「一着作るのに二日はかかるから十六日はかかると言っていた」
「半月もソファーで寝るの!?」
「食事も自分達でどうにかしてくれと言っていた」
「…………食材はあるのか?」
「キッチンにたくさんあるらしいぞ」
「キッチンはどこですか?」
「玄関からすぐ右の部屋だそうだ」
「じゃあ反対側だね」
そう言ったクラウスの表情が妙に暗い。
何かあったのだろうか?
「どうかしたの?」
そんなクラウスの様子を気にするアスモデウス。
「ならば聞くが――」
「何を?」
「料理作れるのか?」
その言葉を発した瞬間、確かに空気が凍った。
シーン――
「クーは作れないの?」
「作れるわけないだろ。俺は小さい頃から
紅茶やコーヒーぐらいしか入れられないぞ」
「そんな……」
それに衝撃を受けるアスモデウス。
「僕だって作れないのに……」
「魔界や冥界では食事といっても焼いたり煮たりした単純な料理が多かったしのぉ」
「
自分で料理なんか作れないと喚き始めるアスモデウス。
「
「すいません、無理です」
予想通りの言葉だ。
「じゃあさ、どうするの?」
「さぁなぁ〜…………知らない食材ばっかりだろうから、そもそもどうすればいいのかわからないと思うぞ」
ここは狭界。
彼らの暮らしていた場所とは全く違う場所。
食べ物も違うはずだ。
「ふむ。食事ぐらいはカルナに頼まねば半月の断食ツアーになりかねんの」
「俺は別に半月ぐらいなら何も食べなくても平気だけど……」
ここはマナの力が強いしとクラウス。
「僕は食べないとやっていけないー!」
それとは対照的なアスモデウス。
「アスモデウスはああ見えてわりと大食漢だしの」
「僕もそんなに長い間、食べないで平気な自信がありません」
シュンとする
「わしも無理じゃな。仕方ない、後でカルナが帰ってきたら頼むとしよう」
その後、帰って来たカルナに頼んで食事は作ってもらえることになった。
その食事も創成の神らしく、材料を釜に放り込んで作るらしい。
材料を放り込むだけでどうしてあのような料理になるのかはかなり不思議だと
こうして十六日後、カルナの作品が誕生するまでリビングで暮らす事になる。