「……おはよう」
クラウスが眠たそうにレストルームに行くとみんな揃っていた。
「おはようございます」
「相変わらず朝には弱いようじゃの」
そう簡単に体質が改善するはずは無い。
そんな方法があるならぜひ教えてもらいたいものだ。
「マナの消費が以前より抑えられてるからもう少し平気になったのかと思った」
「俺のこれは……それだけじゃなくて……………………ふぁ…………低血圧も原因だから……そう簡単に治ったりは…………しな…………い……」
パタン。
欠伸をかみ殺しながら椅子に座るクラウス。
「ねむぅ〜」
そしてもう一人、こちらは思いっきり欠伸をしながらレストルームに入って来た。
「はよ」
そしてべたーっとテーブルに突っ伏す。
「
食事を運んで来たメイド姿の天使と一緒に入って来た執事姿の天使に注意される
「え〜〜〜」
露骨に不満をあらわにする。
「そんな声を出してもダメです」
シャキッとして! と言われて仕方なく起き上がる
そこにテキパキと食事を並べていくメイド姿の天使。
並べ終わると一礼して去って行った。
執事姿の天使の方は、
「じゃあ、朝ごはんにしようか……」
暖かいうちにね、と言われ、食事を開始する。
しかし、何やら視線を感じてクラウスはそちらに顔を向けた。
緩慢に食事をしながらもけしてこちらから目を逸らさない
流石にじっと見つめられたままでは居心地が悪い。
「何か?」
「なんでもないよ」
そう言う
しかし、あまり説得力は無い。
クラウスは感じていた。
ディヴァイアを出てから何故か人にじっと見られることが多い。
気のせいというにはあまりにもしっかりと視線を感じる。
――俺は……何かしたの…………か?
心当たりは無いんだが……
それとも俺は少し変なのか……?
クラウスは珍しく悩んだ。
しかし、考えても何も思い浮かんではこない。
「はぁ」
クラウスは溜息を吐いて食事を再開した。
あの情報収集能力といい、かなり出来る人物のはずだ。
惑星神たちには、何か見えているのだろうか。
他の者たちにはわからない何かが視えているのだろうか。
「クラウスさん?」
そんなクラウスの様子に眉をひそめる
「ん? ああ、平気だ。まだ少し眠いだけだから」
クラウスはあっさり誤魔化した。
「そうですか」
そう返事をした
しかし、クラウスの何に関して違和感を抱いているのかはわからなかった。
確かに何か少し違うと感じているというのに――
アスモデウスやレヴィアタンを見る
違和感を感じているのは
もう一度クラウスを見るが、やはりその違和感の正体はわからなかった。
食事が終わり、さっそく移動しようとしたのだが、
「何をくれるんだろうね?」
「お主に何かくれると言っておったのではないじゃろうが」
楽しそうなアスモデウスに呆れるレヴィアタン。
「そうですね。クラウスさんに渡したいものがあると言っていました」
「なんか最近そういうの多いな」
「そういうの?」
「うん。なんか、気を使われているというか……いろいろ物を貰っているな〜というか……」
「う〜ん……そんなに気にするようなことではないと思いますよ」
「クーが唯の
「……そうか?」
暢気なアスモデウスと違ってクラウスの表情は非常に暗い。
「そういうのとは……違う気がする――」
「何が違うと?」
「みんなが俺を見る目……上手く言えないけど…………なんか意外なものを見つけたというか……そんな…………そういう類の目で見られているような気がするんだ」
それを聞いたレヴィアタンはちらりとアスモデウスを見た。
だが、アスモデウスが表情を変える様子は無い。
「クラウスさん……」
「大丈夫だよ」
「アスモデウス?」
不安そうなクラウスにきっぱりとアスモデウスは言った。
「君が何者であろうとも君がクラウス=クルーグハルトであることに変わりは無い。君が君でなくなるわけではないよ。
そうでしょう?」
クラウスは黙った。
そして――
「そう……そうだな…………俺は……俺だな」
「そう…………君は君だよ」
――そう……間違いなく……ね…………
アスモデウスは置いてある茶菓子をがぶりと食べた。
――クラウスの本質が何であろうともクラウスであることに変わりは無い。
それは普通のことだ。
何の問題もない。
「アスモデウス」
考え込んでいたアスモデウスにレヴィアタンが声を掛けた。
「何?」
「…………もう少し……遠慮したらどうじゃ?」
言われて気付く。
すでに茶菓子として置いてあった豆大福は半分ほど無くなっていた。
「いや、美味しくて」
アスモデウスは笑って誤魔化した。
「やはり……あれ以来…………精霊鳥の出現報告はないね」
でも、自分の目で見てよくわかった。
やはり……彼は……――
「でもおかしいね……彼は、
彼も……そして周囲もそう思っている。
「精霊鳥は親が精霊鳥でなければ誕生しないはずなんだけどね……」
でも彼は間違いなく存在する。
そこに当たり前に存在する。
空気のように、当然といった感じで。
「でも……今までがそうだとしても、これからもそうであるという保障はない。だから彼がイレギュラーだというのは早計だ」
パラリ。
報告書をめくる手が止まる。
「マナ……か――」
彼らはマナの力を絶対に必要とする。マナがなければ彼らは……精霊鳥は生きることが出来ない。
しかし、見る限り彼がそれに神経質になっている感じがしない。
それに普通に人と触れ合っていた。
彼らは望まなければ触れることを許さない。
彼らは触れるものを選べる。
望めば何者にも触れることを許さない……そんな力がある。
攻撃を全て受け流すのが彼らの特徴だ。
だが、彼がそれをする気配は無い。
「……見間違い? いや、しかし――」
あれは確かに――
「う〜ん……」
自覚が無ければあの力を使うことが出来ないのだろうか?
姿も多少違うし……
……そうであるという前提で、保険をかけようと思っているのではないか。
「もし、そうであるならば……天然記念物並だし……」
――失うわけには行かない……
中にはたくさんの果物が入っている。
その果物は全て同じものだ。
そして、その果物は今
それもそのはず――――この果実はさっき
「あまり待たせるのも悪いよね」
彼らを待たせてからけっこう時間が経っている。
これ以上待たせると怒りはしないだろうがいろいろ考えていそうだ。
「おまたせ」
だが、茶菓子として置いてあった豆大福はほとんど…………というか残り一個を残して全てなくなっていた。
食べたのはおそらくアスモデウス一人だろう。
レヴィアタンが呆れたようにアスモデウスを見ているし、
「アスモデウス……もしかして朝食足りなかったの?」
思わずそう聞いた
当然の疑問だ。
しかし、先の朝食でもしっかりと食べていた。
パンやスープのおかわりまでして……
とても足りなかったようには思えない。
「え? ううん、足りたよ」
そう言いながら最後の豆大福を頬張る。
アスモデウスの言葉に説得力は皆無だ。
それを見ていたレヴィアタンが説明した。
「アスモデウスの真の姿はかなり大きいからのぅ……食べようと思えばかなりたくさん食べられる。燃費が良いから普段はそれほど食べ物が必要というわけではないのじゃが……」
「でも目の前にあるとつい食べちゃうんだよね〜」
悪気は全く無いようだ。
「まぁ、良いんだけどね」
どうせ他に客など来ない。
そう思い
クラウスは中を覗いて、尋ねた。
「これは?」
手のひら大の大きさの青い実がたくさん詰まっている。一つ手に持ってみると……軽い。
「それはアンブロシア。この
「どうしてこれを俺に?」
「それはマナをたくさん内包していて一つ食べるだけでも体内をマナが満たしてくれる――――貴方にとっては必要な果物だと思うよ」
「マナが……」
「へえ、それはいいね」
「どれ位持つのじゃ?」
それを聞いたアスモデウスとレヴィアタンも覗き込む。
「何時まででももつよ。そのアンブロシアは腐らないからね」
「そんな果物があるんですか」
「うん。味はさくらんぼに似てるよ」
「ありがとう」
お礼を言ったクラウスだが、少し困った。
「どうやって持って行こう……」
クラウスの荷物はかなり少なめだ。
必要最低限のものしか持って来ていないし、増える予定が無かったのでクラウスはこんな大きな荷物をしまう大きなバッグは持っていない。
それに気付いた
「バックパックでいい?」
「あー……」
それを聞いたクラウスは微妙な顔をした。
「翼が邪魔で背負いにくいからなぁ」
それもそうだ。
「じゃあ、ショルダーバッグにもなるバックパックならいい?」
「それなら平気かな」
それを聞いた
けっこう大きかった。
「大きいね。僕のバックパックより大きいよ」
アスモデウスも大きめのバックパックを背負っている。中身は着替えとかだが。
「竜革バッグだよ」
とても丈夫そうだ。
触った感じはとても硬い。
クラウスはこの白いバッグにアンブロシアの入った袋を入れた。
まだ余裕がある。
それを見た
「ちょっと貸して」
そう言ってバッグを持っていずこかへ消えた。
「どうしたんだ?」
「さぁ?」
クラウスたちには訳がわからない。
だが、しばらくして帰って来た
「さっきより重い」
そう思ってバッグを開けてみると、中はアンブロシアで埋まっていた。
「こんなにいいのか?」
いくらなんでも貰いすぎな気がした。
「いいよ。毎日たくさん実をつけるから、それをそのままにしておくとそのうち枝が重くて折れちゃうんだよね」
毎日たくさん生る。ここではそう貴重品というわけではないようだ。
「それを食べて無事に役目を果たしてね」
そう言った
この言葉にはどれほどの意味が籠められているのか……
クラウスにはわからなかった。
「頑張ってね」
ずっしりと重いバッグに全てが籠められている気がした。
「じゃあそろそろ移動だね」
「いろいろ世話になったのぉ」
「ありがとうございました」
「気にしなくていいよ。私はほとんど役に立たなかったからね。これ位しかして上げられない」
「それでも助かった」
「うん。そう言ってもらえると嬉しいよ」
クラウスは目を閉じる。
〈――三界ガ一ツ、蒼碧神殿………………………………………………
………………………………………………………………座標五〇〇〇〉
…… η ο τ τ δ ε ς υ β ε ς ς α υ ν θ ε ς ς σ γ θ τ θ α τ ν α γ θ τ ζ α θ ι η ø υ σ ε ι ξ α μ μ ε χ ε μ τ ι ξ φ ε ς β ι ξ δ υ ξ η ø υ β ς ι ξ η ε ξ υ ξ δ θ α τ δ ι ε ν ι τ τ ε μ δ ι ε ζ ς ε ι ε ι ξ ε δ ι ν ε ξ σ ι ο ξ β ε χ ε η ε ξ λ ο ξ ξ ε ξ
「良き旅路を――」
最後に
―― 空間を支配する神の
その言葉を最後に空間が歪む。
次の行き先は狭界の外にある世界。
本格的な旅が始まろうとしていた。