次に着いた場所は今までと違ってちゃんと青い空をしていた。
雲もある。
それに暖かい。
「ここが三界」
風も吹いている。
しかし、大地が途中で切れているところは狭界の神殿のあった場所と似ていた。
「うわ〜、凄いです」
眼下に広がっていたのはディヴァイアと同じような景色だった。
森や街のある広大な大地。大きく広がる海。空にいくつもの大地が浮いている。
「ここはこの見えているのが三界の全てみたいだね」
「うむ。わりと大きいのぅ」
「ここに
「みたいだな」
「きっとそこの神殿で世界を見守ってるんだよ」
「ディヴァイアと違って万物神がおる気配はないのぅ」
「でも、精霊はたくさんいる。ディヴァイアより多いんじゃないのか?」
「わかるんですか?」
「ああ。
「――――はい」
「まぁいいよ。そんなことはさ。
それより
くるりと踵を反すと蒼碧神殿へ向かった。
近くに行くとそれはとても美しい神殿である事がわかった。
その名の通り、蒼と碧色をしている。
氷のように透明な素材で出来ている。
「綺麗ですね」
確かに綺麗な建物だった。
「入り口どこ?」
ここから見る限り入り口は見えない。
「反対側にあるかもしれないな」
「ああ、なるほど」
「ではぐるりと回ってみるとしようかの」
この神殿は塔のように円型をしていた。ただ、かなり大きい。
ぐるりと回って入り口を探す。
そして反対側に扉らしきものを見つけた。
『…………』
だが、それを見て黙り込む一行。
「ドアノブないね」
「つるっとしとるの」
「押すことも引くことも出来なそうなんですけど……」
「ノックしてみる?」
そんな会話をしている三人を他所にクラウスはスッとドアに手を伸ばした。
スルリ――
それを見てぎょっとする。
――手が……ドアをすり抜けた。
それを確認したクラウスはそのままドアをすり抜けた。
「……なるほど、こういうタイプの扉なんだ」
今度はレヴィアタンがドアに手を突っ込んだ。
「ふむ。少し抵抗があるの。しかし、別に身体に害をなす機能はなさそうじゃな」
レヴィアタンもスルリとすり抜けた。
ガン。
『…………』
「ぶつかったね……」
それを見たアスモデウスも手を伸ばす。
こちらはスルリとすり抜けた。
「?」
「カイだけすり抜けなかったね」
「僕、何か悪いんでしょうか?」
不安そうにアスモデウスを見つめる
しかし、通り抜けられなかった理由をアスモデウスが知るわけもない。
「力がないからだ」
振り向くと体半分こちら側に出したクラウスがいた。
「
俺は何故か全く抵抗を感じなかったけど、レヴィアタンは少し抵抗を感じた。アスモデウスはどうだ?」
そう言われてアスモデウスは改めて手を突っ込んだ。
「あんまり感じないかな。しいていえば水に手を突っ込んだみたい」
「じゃあカイは通れないよね」
「そうだな」
「ごめんなさい」
シュンとする
「カイが悪いわけじゃないよ」
「そうだな。こういうセキュリティというだけだ」
「僕ここでカイと一緒に待ってるから二人で行って来てよ」
一人にするわけにはいかないしとアスモデウス。
「わかった」
クラウスは返事をするとスルリと上半身を引き抜いた。
「
「アスモデウスが見ていてくれるそうだ」
「ではわしらは中に入って話を聞くとしようか」
クラウスとレヴィアタンは透明な扉の先を見た。
もう一枚、扉がある。こちらにはちゃんとドアノブもある。
「こんにちは」
クラウスとレヴィアタンがノックをする前に扉が開き、一人の男性天使が現れた。
「どのようなご用件でしょうか?」
ここの天使はディヴァイアでいう神官のような格好をしていた。
「
「ローエンシュタイン様に?」
天使は少し考え込むようなしぐさをした後、それを了承した。
「ではこちらへ」
そして客間に案内される。
その天使が出て行ってしばらくすると女性天使が入って来た。
服装はさっきの天使と一緒だ。男女の違いはないらしい。
「さて、
「実は――」
場所が変わるたびに同じ説明が必要になる。
面倒だがしかたがない。
――後で音声記録の紋章術で説明用の道具でも作るか……
いい加減面倒になってきたクラウスはそんなことを考えた。
――ああでも……ガラス球もってないな…………どこかで仕入れるか……
「――…ウス」
――情報量を考えると手のひら大くらいの大きさは必要か……
「――……クラウス」
「はっ――」
すっかり考え込んでいたクラウスはレヴィアタンに声を掛けられてやっと気がついた。
「どうかしたかの?」
「ああ…………いや、無駄を省き簡略化を――」
一人考え込んでいたクラウスをじっと見つめているレヴィアタンと天使。
「ああ、いや……今は関係ないな。今後のために必要だと思っただけだから――」
クラウスは乾いた笑みを浮かべた。
レヴィアタンはそんなクラウスのことがあまり気にならないらしく、話を戻した。
アスモデウスで馴れているのかもしれない。
「され、わしらの経緯は今説明した通りじゃ」
クラウスが考え込んでいる間に説明は全てレヴィアタンがしてくれたらしい。
「ええ、貴方方の切迫した状況は理解いたしました」
「それでは
それを聞いた天使は少し困った顔をした。
「ダメか?」
「いえ……こういう事情ならば
「何か問題が?」
「あー……その…………」
歯切れ悪く天使は告げた。
「――間の悪いことに、今、
『え?』
申し訳なさそうにしている天使に、なんと声を掛けるべきか少し二人は迷った。
「ヒマだねー」
「そうですね」
二人は扉に続く石段の上に座っていた。
「まさか力無い人立ち入り禁止だなんてねー」
「こういう時に困ります。この身体」
はぁ……と溜息を吐く
困っているのはそれだけではないが、こういうことがあると改めて自分の無力を感じる。
「カイは生きてるから平気だよ」
「えっ?」
アスモデウスは唐突に言った。
「生きている限り終りじゃないよ」
「アスモデウス……さん?」
「死んだら……何も出来ないでしょう?」
「――…………はい」
「
まだディヴァイアは終わってはいないよ…………ね?」
「あ……」
「出来るでしょう?」
「そうですね……まだ、終わっていません」
「諦めない限り、終わったりしないと思うんだよね」
アスモデウスはニッコリと微笑んだ。
「それにさ、君が諦めたりしたら、ディヴァイアで今頑張っているヒト達に申し訳ないよね?」
ぎゅう……
「そうですね。そんなこと……出来ません。
僕は万物神なんだから」
諦めることは許されない。
こうして、付き合ってくれているアスモデウス、レヴィアタン、そしてクラウスにも申し訳ない。
そしてそんなことを考えているとき、ふと気になることがあった。
「あの、アスモデウスさん」
「何?」
「もし…………もしディヴァイアに何かあったらその周囲にあるアービトレイアはどうなるんですか?」
「アービトレイア?」
アスモデウスは少し驚いた。
「……バランスが崩れると思うよ」
「バランスが?」
「うん。ディヴァイアに何かあれば……ディヴァイアが崩壊すれば、それと密接な係わりを持っている幽界、死界、霊界が連鎖的に崩壊すると思う。魔界、冥界、深淵は大丈夫だと思うけど……環境が変わるかもしれないし……いまのままでは、いられないだろうけど――」
アスモデウスにもよくわからないらしい。
「ごめんなさい……こんなことを聞いて――」
ポン。
アスモデウスは
「大丈夫だよ。そんなことにはならないから。
向こうには死界の魔王アシリエルがいる。アシリエルは機会に強いから大丈夫だよ。壊れた制御システムを新たに作れるだけの知識と技術を持っている。それに……現世の魔王グラキエースもやる気は全く無いけど知識と技術力だけ見ればアシリエルも到底及ばないほどある。上手く使えばかなりの戦力になるはずだよ。やる気があればね」
「あの…………それじゃああまり役に立ってはいないのでは?」
やる気の無いものにどうやって手伝わせるというのか?
「平気だよ」
それに対して自信満々に言うアスモデウス。
その自信はどこから生まれるというのか?
「アシリエルは超〜真面目な堅物君だから、グラキエースを絶対に引きずり出す。傍観者ではいられない」
いつもと全く違う雰囲気のアスモデウスに一瞬のまれる
こんなヒトでも冥界の魔王だ。いち責任者なのだ。
「……そうですね。僕は信じて、諦めずに前へ進むしかありませんよね」
「そうそう」
そんな時、中に入っていった二人が帰ってきた。
浮かない顔をしている。
「ダメだったの?」
その表情から察したアスモデウスはストレートに聞いた。
「いや、
「天使しかおらんくての」
…………
「どうするんですか?」
「天空界にいるらしいセラスティスと深海界にいるらしいセレスティスはどこで何をしているのか全く不明。ここ十年以上音信普通らしい」
「大地界にいるセシルティスだけは定期的なみまわりの最中だとわかっておる」
「具体的な場所は?」
それを聞いたレヴィアタンとクラウスは顔を見合わせた。
『さぁ?』
「さぁって――」
「各地を転々としているらしい」
「地図を貰ったぞ」
クラウスは地図をバッと広げた。
「大地界の地図だ」
「丸がついているところに立ち寄るそうじゃ」
言われて良く見ると、地図には名前のところに何箇所も赤く丸がついている。
「……地道に一つずつ回って確かめるしかないの?」
「待っておってもいいが、
「下に広がってる広大な大地が、大地界らしい」
言われて大地の切れ目に向かう。
「あそこに行くんですね」
「そう」
「でもこれ、けっこう丸ついてるよ」
クラウスから地図を受け取って眺めていたアスモデウスは渋い顔をした。
「飛んで降りて地道に探すだけじゃ」
「運がよければすぐ会えるだろう」
「諦めて行くぞ」
「はぁ…………しょうがないな」
「それから天使から注意事項だ」
「注意しなければならないこと、ですか?」
「うむ。この世界は天空界には半人半鳥の種族が、深海界には半人半魚の種族が、そして大地界に住んでいるのはほぼ人間。背中に翼を背負っていたり、頭から獣耳が生えていたりしないらしい。
わしやアスモデウスは平気じゃが、クラウスと
「じゃあ帽子の中に耳をしまっておかないと――」
「それにケープも外せぬのぉ」
「ああ、魔物扱いはされたくないからな」
「じゃあ、降りるときはなるべく人のいなそうなところにしないといけませんね」
「じゃあ山の中?」
「それが良いじゃろうな」
「それじゃあ、あそこの山に向かってレッツ・ゴー」
アスモデウスはそう言うと近くにいた
「え?」
一瞬、何が起こったのか理解できない
「ええ――――――――」
大地に向かって落ちていく二人。
アスモデウスは右手で、
それを眺めていたレヴィアタンとクラウス。
「哀れな――」
「可哀想に――」
そう言って翼を広げて二人も飛び立った。
未だに翼を出さずに落ちるアスモデウスに悲鳴を上げ続ける
しばらくしてアスモデウスが翼を広げて落下速度が落ちたが、