「ついに今年の武芸大会も決勝戦です！」
　会場も盛り上がっている。
「圧倒的な力で相手をねじ伏せて来たＣ−３チーム！！
　そして、去年の優勝者Ａ−１チーム！！」
　決勝戦――対戦士二人、召喚術師、治癒師。
「さぁ！　勝利の女神はどちらに微笑むのか！？
　レディー――――ゴー！！」
　そしてクラウスはいつものように結界を張った。

　　　……　　ι　γ　θ　τ　ς　α　η　ε　ε　ι　ξ　σ　α　ν　λ　ε　ι　τ　υ　ξ　δ　σ　γ　θ　υ　τ　ø　ε　ε　σ

　海水(かいな)が後ろで心配そうにしている。
　　　――孤独に耐える道化の涙



　そしてもう一つ結界を張ろうとしたところ、物凄い咆哮が聞こえた。
「な……何？」
　海水(かいな)が正面を見るとそこには――
　――そこには大きな黒いドラゴンが現れた。
「…………凄ーい！！」
「召喚術か……」
「セラドンが笑っていた理由はこれか――」
　クラウスはドラゴンに対抗するため、ちょっと強力な結界を張る。

　　　……　　ε　ι　ξ　ε　ε　ς　σ　γ　θ　ε　ι　ξ　υ　ξ　η　φ　ο　ξ　ε　ι　ξ　ε　ς　μ　ε　β　ε　ξ　δ　ε　ξ　π　ε　ς　σ　ο　ξ　δ　ι　ε　ι　γ　θ　ε　ι　ξ　σ　α　ν　λ　ε　ι　τ　ε　ς　χ　α　ς　τ　ε　υ　ξ　δ　μ　ε　θ　ξ　τ　ε　ι　ξ　ε　α　ξ　δ　ε　ς　ε　π　ε　ς　σ　ο　ξ　α　β

　海水(かいな)が怯えたようにクラウスにしがみ付く。
　　　――孤独を望む精霊の歌声



「暢気に笑ってられなさげ？」
「少し真面目に攻撃せい」
「はーい」

　　　……　　δ　ε　ς　ε　ξ　η　ε　μ　δ　ε　ς　ν　ι　γ　θ　ζ　α　μ　μ　τ　χ　ι　ς　δ　ι　ξ　ε　ι　ξ　ε　ν　α　υ　ε　ς　δ　ε　σ　μ　ι　γ　θ　τ　ε　σ　υ　ξ　δ　ι　ξ　α　β　σ　ο　μ　υ　τ　ε　ς　φ　ε　ς　τ　ε　ι　δ　ι　η　υ　ξ　η　ø　υ　σ　γ　θ　μ　α　ζ　ε　ξ　ε　ι　ξ　η　ε　χ　ι　γ　λ　ε　μ　τ

「とう！」
　キィ――ン……
　　　――光に包まれて眠る天使



「あれ……」
　アスモデウスの槍を防ぐドラゴンの鱗。
　その後方でクラウスは三重の結界を張った。
　といっても、一番最初に張った結界はドラゴン相手には役不足だろうが――
「う〜む……硬いのぉ――」
　レヴィアタンの短剣もはじき返された。
　そしてドラゴンはそんな攻撃など意に介さず、ブレスを吐いてきた。
　業火が襲いかかって来る。
　流石にこれは避けるアスモデウスとレヴィアタン。
　二人は避けたが、クラウスと海水(かいな)は結界が張られているため動けない。
　まともに入り、一枚結界が壊れる。
「あ、あの……大丈夫……ですよね？」
「どうだろうな？　結界は壊れるかもしれないな」
　緊張感なく言われ、青ざめる海水(かいな)。
「う〜ん……こんな武器じゃ無理だー！！」
　何回か攻撃を仕掛けても全て駄目だったアスモデウスは叫んだ。
「レヴィ、パス」
　レヴィアタンに向かって槍を投げると、アスモデウスは召喚する。
　レヴィアタンは危なげもなく自身に向かって飛んでくる槍を右手で受け止める。
「我が力にして必滅の刃――
　我に従い形となせ――
　＜蒼刃の長槍フェルツァーグン＞」
　いつもの武器を手にしたアスモデウスは軽快にドラゴンに襲いかかった。
「とりゃあ！」
　バキッ！
　「ぐぉ――――――――――――――――！！！！」

　ドラゴンが大きく唸り声を上げる。
　さすがに力の分身である蒼刃の長槍フェルツァーグンはその辺の物で作った武器とは違う。
　派手な音をたてて鱗を剥ぎ飛ばした。
　その痛みに怒ったらしいドラゴンは高く飛翔した。
　そして業火を吐く。
　アスモデウスは槍をくるくると振り回してそれを防ぐ。
　レヴィアタンはもちろん避けたが、やっぱり動けない二人に直撃した。
　二枚目も割れる。
　そしてまた結界を張りなおすクラウス。

　　　……　　ε　ι　ξ　ε　ε　ς　σ　γ　θ　ε　ι　ξ　υ　ξ　η　φ　ο　ξ　ε　ι　ξ　ε　ς　μ　ε　β　ε　ξ　δ　ε　ξ　π　ε　ς　σ　ο　ξ　δ　ι　ε　ι　γ　θ　ε　ι　ξ　σ　α　ν　λ　ε　ι　τ　ε　ς　χ　α　ς　τ　ε　υ　ξ　δ　μ　ε　θ　ξ　τ　ε　ι　ξ　ε　α　ξ　δ　ε　ς　ε　π　ε　ς　σ　ο　ξ　α　β

「なかなか歯ごたえのあるドラゴンだね」
　　　――孤独を望む精霊の歌声



　高くジャンプし、槍をドラゴンに向かって投げる。

　　　……　　δ　ε　ς　ε　ξ　η　ε　μ　δ　ε　ς　ν　ι　γ　θ　ζ　α　μ　μ　τ　χ　ι　ς　δ　ι　ξ　ε　ι　ξ　ε　ν　α　υ　ε　ς　δ　ε　σ　μ　ι　γ　θ　τ　ε　σ　υ　ξ　δ　ι　ξ　α　β　σ　ο　μ　υ　τ　ε　ς　φ　ε　ς　τ　ε　ι　δ　ι　η　υ　ξ　η　ø　υ　σ　γ　θ　μ　α　ζ　ε　ξ　ε　ι　ξ　η　ε　χ　ι　γ　λ　ε　μ　τ

　槍は見事にドラゴンの横っ腹に突き刺さった。
　「ぐぉぉぉおぉぉおぉおぉおおぉぉ…………――」

　痛みに空中でのた打ち回るドラゴン。
　　　――光に包まれて眠る天使



「アスモデウス！」
　レヴィアタンは槍と短剣を海水(かいな)に渡すとアスモデウスに駆け寄った。
「よろしく」
「任せよ」
　トン――
　軽くジャンプしたアスモデウスはレヴィアタンの組まれた両手に着地する。
　そしてレヴィアタンはアスモデウスが刺した槍に向かった思いっきり両手を振り上げアスモデウスを天高く飛ばした。
　難なく槍に届き、アスモデウスは槍を握りしめ振り落とされないように踏ん張った。
　そして動きの鈍くなった時を見計らって槍を引き抜き一気に駆け上がる。
　そして槍をドラゴンの赤い瞳に突き刺した。
　「ぐぉぉぉおぉぉおおおおおおおおぉぉ…………――」

　ドラゴンはその痛みに暴れまわる。
　槍を手放していたアスモデウスは軽く振り落とされる。
　それでもしっかりと着地する。
　槍はドラゴンの目に刺さったままだ。
　槍はかなり深く目に刺さっているようで、ドラゴンが暴れた程度では落ちてこない。
　武器のないアスモデウスだが、慌てずに喚んだ。
「我が力にして必滅の刃――
　我に従い形となせ――
　＜蒼刃の長槍フェルツァーグン＞」
　自分の力の分身である武器は距離は関係ない。
　どれだけ離れていようとも喚べば手元に戻ってくる。
　アスモデウスの手に槍が戻ると同時にドラゴンの目に刺さっていた槍が消える。
　これが便利な所だ。
「うわっ！」
　怒ったドラゴンは容赦なく業火を吐いた。
　パキン……パキン……
　次々と繰り出される業火に結界が二枚割れる。
「うう……怖いです」
「このまま結界張り続けると消耗するな」
　アスモデウスは周囲に人の目があるため全力を出せない。
　一応セーブしているようだ。
　これが普段なら人間にはとても無理な跳躍力を披露したり、背中から翼を出して空中戦も難なくこなすのだが――
「攻撃に移るか……」
　クラウスはこのままだと時間がかかると判断し、レヴィアタンに声をかけた。
「レヴィアタン。俺も攻撃する。海水(かいな)を頼む」
「うむ。わかった」
　海水(かいな)はレヴィアタンの側に移動した。
　今現在のクラウスは手ぶらだ。
　人間相手ではアスモデウスとレヴィアタンで十分だと思っていたため、杖を持っていない。
　そのため、まず武器を召喚する。
「我が半身にして我が力の礎――
　我が前にその身を現せ――
　＜蒼き珠の聖杖レヴァンテイン＞」
　それを右手に召喚すると、続けてもう一つも喚ぶ。
「我が半身にして我が力の礎――
　我が前にその身を現せ――
　＜創世の源術書アル＝アジフ＞」
　ふわりと重力を無視して創世の源術書アル＝アジフは現れる。
　クラウスは呼び出したアル＝アジフに腰かける。
　すると重さをまるで感じていないかのようにふわりと舞い上がった。
　蒼き珠の聖杖レヴァンテインの力を借りて紋章術を放つ。

　　　……　　ε　ι　ξ　ζ　υ　γ　θ　σ　δ　ε　ς　ζ　α　θ　ι　η　χ　α　ς　β　ο　σ　ø　υ　χ　ε　ς　δ　ε　ξ　β　ε　ι　δ　ε　ν　ξ　ι　γ　θ　τ　α　ξ　η　σ　τ　μ　ι　γ　θ　φ　ο　ξ　δ　ο　ξ　ξ　ε　ς　ι　σ　τ

　アスモデウスは危険を察知してドラゴンのいる付近から離れる。
　巻き込まれては堪らない。
　　　――雷鳴を怖れぬ赫怒(かくど)の狐



　天空から一直線に雷撃がドラゴンに落ちる。
　雷撃をまともに食らったドラゴンは地面に落ちて来た。
　それにすかさず攻撃をしかけるアスモデウス。
　レヴィアタンは海水(かいな)の護衛があるため動かない。
　そして次の術のために印を組むクラウス。

　　　……　　δ　ε　ς　σ　π　ς　ε　γ　θ　ε　ς　δ　ε　ς　ε　ι　ξ　ε　ξ　ξ　α　ς　ς　ε　ξ　σ　γ　θ　μ　α　γ　θ　τ　ε　τ　ε　δ　ε　ς　ε　ι　ξ　ε　σ　ι　γ　θ　ε　μ　ε　ξ　τ　μ　α　ξ　η　η　ε　σ　γ　θ　χ　υ　ξ　η　ε　ξ　χ　ι　ς　δ

　チームワークなどに長けていない魔皇(まこう)族のわりになかなかいい連携プレーだ。
　　　――愚者を屠(ほふ)る代弁者の鎌



　白い雷が容赦なくドラゴンに降り注いだ。
　アスモデウスはさすがにそれには当りたくないらしく、槍を動かしてかわしながら距離をとった。
　なにしろクラウスの紋章術は結構痛そうだからだ。
　全弾直撃したはずだが、それでも怯むことなくドラゴンは襲ってくる。
「けっこうしぶといね」
「確かに」
　クラウスは生命以外の全ての属性を扱えるものの、陽属性の紋章術は陰属性に比べると若干威力が落ちる。
　落ちるといっても蒼き珠の聖杖レヴァンテインの補助を受けているのだ。そう気にするほどでもない。
　なら陰属性の術を使えばいいのだが、陰属性の術は結構派手だ。
　こんな狭い場所で使うには適さない。
　特に、ランクの高い術は――
「手を抜いてられないか――」
　このままだと精神力の無駄遣いだ。
　クラウスはレヴァンテインを手放した。
　だが、レヴァンテインは変わらずその場に浮いている。
　アル＝アジフの効果だろう。
　クラウスは両手で印を組み始める。
　そのためにレヴァンテインを持っているわけにはいかなかった。

　　　……　　ι　γ　θ　τ　ς　α　υ　ε　ς　ε　υ　ξ　δ　η　ο　τ　τ　χ　ι　ς　δ　β　


　　　……　　δ　α　σ　μ　ι　ε　δ　δ　ε　ς　τ　ς　α　η　ο　δ　ι　ε　δ　α　σ　δ　

「あれは……」
　それを見たアスモデウスはすぐにドラゴンと距離をかなりとった。
　そしてフィールドの端にいたレヴィアタンと海水(かいな)の側まで行く。

　　　……　　ο　σ　β　ε　ι　ε　ι　ξ　ε　ν　ν　ε　ξ　σ　γ　θ　ε　ξ　δ　ε　ς　ε　


　　　……　　ι　ε　η　ε　σ　γ　θ　ι　γ　θ　τ　ε　δ　ι　ε　χ　ε　μ　τ　υ　ξ　δ　

「アスモデウスさん？」
「次は大技がくるよ。巻き込まれると身動きがとりにくくなる上かなり危険だよ〜」
　そう言いつつ印を組んだ。

　　　……　　ι　γ　θ　σ　π　ι　ε　μ　ε　ν　ι　τ　ε　ι　ξ　ε　ν　ε　ι　σ　ø　α　π　ζ　ε　ξ

　ランクの低い紋章術のためすぐに発動する。
　　　――氷柱を弄(もてあそ)ぶ酷薄の紳士



　攻撃しようとしているドラゴンに氷を当てて牽制する。

　　　……　　ι　ξ　ε　ξ　χ　α　μ　δ　φ　ε　ς　μ　ε　τ　ø　τ　χ　α　θ　ς　ε　ξ　


　　　……　　ε　ι　ξ　ε　ξ　δ　ε　ø　υ　ø　ε　ι　η　ε　ξ　σ　τ　ο　ς　τ
「海水(かいな)、あれに当てられるか？」
「え……え〜っと――」
　あまり自信がない。
　だが、的は大きい。
「やってみます」

　　　……　　δ　ε　ς　ζ　ο　ς　τ　σ　ε　τ　ø　τ　ε　ι　ξ　ε　ν　θ　ε　ι　μ　ι　

　海水(かいな)は紋章銃にドラゴンに効く弾を装填すると構えた。

　　　……　　ι　γ　θ　σ　π　ι　ε　μ　ε　ν　ι　τ　ε　ι　ξ　ε　ν　ε　ι　σ　ø　α　π　ζ　ε　ξ

　その横でアスモデウスがもう一度印を組む。
　　　――氷柱を弄(もてあそ)ぶ酷薄の紳士



　そして氷がドラゴンを突き刺した。

　　　……　　η　ε　ξ　β　α　υ　ν　ø　υ　ζ　ο　μ　η　ε　ξ　δ　ε　ς　ι　ν　ν　ε　

　動きが一瞬止まる――
　それを見た海水(かいな)は銃の引き金を引いた。
　バン！！

　反動で後ろに飛ばされそうになるが、レヴィアタンに支えられる。

　　　……　　ς　ξ　ο　γ　θ　μ　ε　ι　σ　ε　ι　ξ　ε　ι　ξ　ε　ν　η　ς　ο　σ　σ　

「さすがにあれだけ大きい的だと当てられるね」
「……は、はい……」
　海水(かいな)は安堵の息を吐いた。
　ドラゴンはさすがに効いたのか、動きが鈍くなっている。

　　　……　　ε　ξ　χ　α　μ　δ　σ　τ　ε　θ　τ

「来る！」
「え？」
　レヴィアタンがドラゴンを見据えた。
　次の瞬間――
　　　――樹木を護りし神の嘆き



　地面から樹が生えた。
　そしてドラゴンをはがいじめにした。
　ドラゴンは暴れるが、樹はビクともしない。
　それを見て海水(かいな)は呟いた。
「確かに……巻き込まれたくないですね」
「でしょ〜？」
「巻き込まれるとああなるの」
　レヴィアタンが指差した方を見ると――
「あっ――」
　見事に巻き込まれ動けなくなっている対戦相手たち。
「――忘れてました」
　そう、彼らと戦闘中だったのだ。
　ドラゴンのインパクトが強すぎてすっかり忘れていた。
　　　――世界を壊す終りの惨禍(さんか)



　ドラゴンに紫色の暗い闇がまとわりついた。
　ドラゴンは暴れるが闇は離れない。
　そして――
　ストン――――と、ドラゴンから力が抜ける。
「な……何が――」
「直接精神を攻撃したのじゃ」
「もう生きてないよ。まともに食らったからね」
「まぁ、そのためにわざわざ樹を生やしたんじゃろうがな」
「――？――」
「避けられると周りの人が危険だからね」
「あれがあたれば人間なぞ、何が起こったかわからぬうちに絶命しておるのぉ」
「僕たち魔皇(まこう)族や魔族でもあれを食らうと無事じゃ済まないからね」
「じゃから万全の状態で発動させる必要があったんじゃ」
　バキバキバキバキっ！！！！！

　ドラゴンの重みに耐えきれずに樹が折れ、ドラゴンが落下する。
　ドシン！！！

　だいぶ負荷がかかっていたようだ。
　そこにクラウスが下りて来た。
「ふぅ……」
「お疲れ様ー」
「ああ、後はよろしくな」
「任せて！」
　後は樹に絡みついている人間だけだ。
　それを見たアスモデウスはしばらく思案した後、印を組んだ。

　　　……　　ε　ι　ξ　ς　ι　τ　τ　ε　ς　δ　ε　σ　ø　ο　ς　ξ　ε　σ　δ　ε　ς　ε　ι　ξ　ε　ξ　ζ　ε　υ　ε　ς　β　α　μ　μ　α　β　η　α　β

「さすがにあれを捨てるのは面倒なようじゃな」
　普段あまり紋章術を使わないアスモデウスが今日は三回も使っている。
　　　――火球を放つ憤怒の騎士



　そして火炎球を思いっきり四人に向かって投げつける。
　派手な炎をあげて燃え始める樹。
　それを引き攣った顔で見つめる海水(かいな)。
「て……手加減してますよね？　あの人たち平気ですよね？」
「平気だよ。見た目ほど威力はのせてないから」
「……火傷で済むのか？　あれ」
　向こうからは悲鳴が聞こえる。
　おろおろする海水(かいな)。
「ふむ。しかし……鎮火しないと火事になりかねんの」
　レヴィアタンは激しく燃える樹を見てそう呟いた。

　　　……　　δ　α　σ　χ　α　σ　σ　ε　ς　δ　α　σ　υ　β　ε　ς　μ　α　υ　ζ　τ

　そう判断したレヴィアタンは印を組む。
　　　――溢れる水に触れる道化



　ばっしゃ――――ん！！！！！

　レヴィアタンの放った紋章術は大波を起こしそのまま燃え続ける炎を消し去り、炭になりつつあった樹ごと人間をフィールドの外まで流した。
　ランクが低いわりに容赦ない威力だ。
　あちこちが余波で大変なことになっているが、それは見ないことにした。
「凄い試合でした！！　なんと！　去年の優勝チームを打ち破って優勝したのは、Ｃ−３チームです！！！！！」
　会場には歓声や拍手、そして悲鳴が響き渡った。