アスガルドでは天使たちに頼まれた素材を集めていた。
「ラス司令官〜、頼まれていたもの、結構集まりましたよ」
「ああ、ルーファスか……成果は?」
「そうですね。量が物凄く必要なのでこちらのノルマ分からみて三十パーセントほどかと」
「そうか」
天使と
そう簡単に集まるものではない。
「我が
「そうか……そうだな」
「なんせすごい量ですから」
「司令官〜、鉱石、結構集まりましたぞ」
ラスの執務室にもう一人入って来た。
「ジェラルドか……どの位集まった?」
「そうですな……我々は
「――ということは今の所鉱石は全体の四十五パーセントといったところか……」
「ラス司令官」
そしてまた部屋に二人ほど入って来た。
「
「まだまだですがね」
「どの位加工出来た?」
「ボクたち
「わたしたち
「そうか……」
錬金術はあまり普及していない。アスガルドにもそんなにたくさんいるわけではない。
「これでは近いうちに過労で倒れる者が出るかと――」
「しかし、こればかりは他のやつらに任せるわけにはいかないからな」
ラスは溜め息をついた。
「とりあえず出来るだけ頑張ってくれ。今、俺の知り合いの錬金術師を呼んでいる」
「ラス司令官の知り合い?」
「ああ。錬金術の得意な
コンコン。
ノックが聞こえた。
今までここに入ってきた者たちは誰もノックなどしなかった。
ラスはこんな礼儀正しい部下に心当たりはない。
「はい」
「ラス」
入って来たのはロキだった。
「ん? お前が来るとは珍しいな。何かあったのか?」
「いえ、何もありませんよ。貴方に客人です」
そう言ってロキは道を開けた。
そこには白い耳と渦巻き状の大きな角を持った、ぽや〜っとした人物が無言で立っていた。
「ん〜…………眠い」
目をくしくし擦りながら室内に入って来た。
「ラス〜? ん……久し振り……」
「久しいな。ソラナ」
「ん、そだね」
「お前に頼みたい事がある」
「頼み?」
「ああ、錬金術が使えるお前に」
「何か創るの?」
「ああ、実は――」
ラスはソラナに説明した。
「ん、いいよ。ただ……起きてる間だけでいいなら」
「それでかまわない」
「わかった」
「フェルディナンド」
「はい」
「ソラナを
「はい、わかりました」
「部屋はどうなさいますか? 作業をしてもらう以上、神殿に預けるのはあまり得策ではありませんが」
「ああ、そうだな」
ロキの言葉に悩むラス。
「――ではあの部屋をお貸しいたしましょう」
「あの部屋?」
「ええ、持ち主が不在ですが、いろいろ置きっぱなしなので不自由はしないでしょう。それに、そろそろあそこに備蓄されている紅茶やコーヒーなどを回収しようと思っていた所です」
その言葉でロキの言いたいことがわかった。
「なるほど、クラウスの部屋か」
「ええ、いつお帰りになるかわかりませんし、食べ物は流石に痛みますから」
「そうだな。ソラナはあまり散らかさないだろう」
「ん……そだね。ボクって部屋では寝るぐらいだし」
「ならいいだろう。朝は俺が起こせばいいしな」
「あ……朝……――」
ソラナの顔が嫌そうに歪む。
「……夜は早く寝てかまわない」
それを察したラスはソラナに言った。
「そ? なら、いいけど」
「ではあとで部屋に案内させるための人員が必要ですね」
「もうすぐ昼だ。その前に食堂に連れて行く方がいいだろう」
「うん。お腹すいた」
「
「これで加工の作業効率が上がりますか?」
「ああ勿論だ。ソラナはこう見えて物凄い優秀だからな」
ただ、よく寝るが――
「まあ、よろしく頼む」
「うん。よろしく」
こうしてアスガルドでの素材集めや素材創りが進んでいく。
「ああ、もう!! なんでこんに忙しいんだよ! こんちくしょー!!!」
相変わらず
「諦めてください
「
「冷たくて結構ですよ」
そう言いながら書類をテキパキと
「
「ああ
「
「そう。あとこれとこれとこれとこれもよろしくね」
どっさりと書類を押し付けた。
「――多いな」
「
「悪い」
「なら平気だな」
「こんにちは、
「ほれ」
どさっ――
また大量に書類が増えた。
「うう……」
「
「ああ
「どこに持っていけばいい?」
「これを
「わかった。
受け取って消える
「
「う……まだ」
「早くしてくださいね」
「そう言えば
書類の処理のため手を動かしながらも話を振る
「はい。
「大地の守護天使は今総動員で土台作りをしていますね」
「ですが、さすがにすぐには出来そうもありません」
「そう――」
「みな頑張っているのですから
「うう…………」
そして
ムスッ――
そこには明らかに機嫌の悪いグラキエースがいた。
アシリエルに無理矢理連れて来られて不満そうだ。
「仕事なさってください」
アシリエルは全く容赦がなかった。
「陛下……」
グレシネークも多少びびりながらも仕事をしている。
非常に場の空気が重い。
だが今ここにいるのはグラキエース、アシリエル、そしてグレシネークの三人だけだ。
グリンフィールは魔物討伐中につきここにはいない。
それを羨ましく思うグレシネーク。
今三人は中枢制御システムの核を創っているところだ。
他は材料がまだ揃っていないので着手できない。
だが、核を創るのもそう簡単ではない。
時間もかかるし、技量がないと創ることはできない。
グリンフィールはこういった繊細な作業には向いていない。
そのため、ディヴァイアに増え続けている魔物の討伐に行ってしまったのだ。
どちらにしろそういう人員も必要なのだ。やらなければならないことだとわかっているのだが、この微妙な空気の漂う空間の中に放置されると何となく……いや、物凄く羨ましい。
グラキエースは、なんでこんなことしないといけないんだよオーラをばら撒いているが、その仕事は非常に優秀だ。
それを見ていたアシリエルは関心したように言った。
「なるほど。レヴィアタンとアスモデウスが褒めるだけあって優秀ですね」
「ん〜……いっそこんな能力なければ現世の魔王になんてならなくて済んだのに――」
はぁ……と露骨に溜め息を吐く。
だが手は止めない。
今手を止めてしまえば今までの苦労が水の泡だ。
最初からまたやり直さなければならない。
面倒事は嫌いだが、これ以上の面倒事になるのも避けたかった。
だからこそ、不満ながらにも手伝っているのだ。
「はぁ……もう少し人数がいれば早く構築できるのに――」
「そうですね。これは三人で創るものではありません」
「そうだよ。全く……昔これを創った時は
そうは言ってもここには三人しかいない。
「グリンフィールももう少しこういうのに詳しければ――」
グリンフィールにこういう能力があれば間違いなく手伝わせていたことだろう。
「でも、これも魔王様が二人いるから出来ることです」
「そうですね。本当はもう少し人手が欲しい所ですが、贅沢は言えません」
「でも、グリンフィールより精神力の弱い私ではどこまでお二人のお役にたてるかわかりませんけどね」
「いないよりマシだ」
「そうですね。一人でも多く欲しい所です」
三人とも口は動いているが、手は一切止めない。
少しでも間違えてしまえば一からやり直しだ。
そんなことになったらグラキエースの機嫌は急降下してしまうだろう。
グレシネークは本当に一切気が抜けなかった。
冷や汗が出てくる。
――なのに、二人の魔王はまだ余裕がある。
さすがに魔王をしているだけのことはある。
「はぁ……この分じゃこの浮遊システムだけの完成まで一ヶ月はかかるよ」
「仕方ありません」
グレシネークは気が重かった。
一ヶ月も不眠不休で作業する事が自分にはたして出来るだろうか……?
まだ作業は始まったばかりである。
大陸を一つ創り浮かせるのはそう簡単なことではない。
「
「
「まあ、仕方ないよね」
何せ大陸を創るのだ。
創りながら落としてしまっては元も子もない。
「浮力は働いているようだね」
「そちらは
大陸を創るのは大地の天使たち。
そしてその陸地を浮かせるために空の天使と空間の天使にも協力してもらっている。
アシリエルたちの創っている核が出来るまでは天使の力で浮かせるしかない。
「この分だと……どの位かかるかな?」
「さぁ?
「そんなにかかるかぁ〜」
「しかし、必要なのは浮遊システムだけではない。中枢制御システムとしての全てのシステムの構築にはかなりの時間がかかりそうだ」
「だが
「あ、
「疲れることだ。まぁ、我々空の天使なぞ、大地の天使に比べればたいした事はないがな」
「創り終われば暇になるから平気だよ」
「そうだな。創り終わるまでが大変なだけだ。だが、空と空間の天使は浮遊システムが構築されるまで落とさないようにずっと力を使わなければならないだろう? そちらも大変だ」
「水の天使たちも大変そうだが」
「そうだな。水・霧・雲・雨……それぞれの管轄全ての天使を集めても圧倒的に足りないと聞く」
「いまどこも忙しくて暇な天使なんかいないよ」
そう愚痴りながら書類を処理していく
「そういえば
「
「ああ、それも空間の天使の仕事か――」
「そうそう」
「……猫の手も借りたい状況だな」
「全くだね」
過労で倒れそうだと愚痴る
そんなこんなで、