「貴方達は何者ですか? この結界をすり抜けられるという事は惑星神並みの力を持っているという事……ですが、貴方達から神の力は感じられない。貴方達は一体――」
アスモデウスはコンパスを見せた。
「それは……私の部下の……
だがそれに困ったのは
「僕はここに残るよ」
それを見たアスモデウスは言った。
「何故ですか? ここには何もありませんよ」
「でも彼が……
困ったようにアスモデウスは言った。
「申し訳ありません。気が付きませんでした」
セシルティスはそう言うと
そして手を差し出す。
「手を――」
そう言われ
そして、ぐいっと中に引っ張った。
するりと結界を抜けた。
何の抵抗もなく。
「え? あ――」
「さぁ、こちらへ」
四人は案内されるままついて行った。
一つの部屋の中に案内される。
中は客間のようだった。
「申し遅れました。私は大地神セシルティス=ローエンシュタインです」
「始めまして〜。僕はアスモデウス」
「わしはレヴィアタン」
「クラウス=クルーグハルトだ」
「僕は
「では、いろいろ説明していただけますね」
「ああ、これを――」
クラウスはバッグからガラス球を取り出して渡した。
それを受け取るセシルティス。
これはクラウスの作った記憶の宝珠。
面倒な説明を省く便利アイテムだ。
「――…………なるほど。よくわかりました」
そう言ってガラス球をクラウスに返した。
「大変なことになっているようですね」
「はい」
「それで、何か知っているなら是非教えていただきたいのですが」
「そうですね……こういう事情ならば協力して差し上げたいのは山々なのですが――」
セシルティスは言葉を切った。
「残念ながら私は何も知らないんです」
「……そう…………ですか……」
肩を落とす
「
レッドベリル様も同じ場所にずっといらっしゃるかも知れませんが……あのお方は特殊でどこかにひっそり暮らしているようですし…………エーテル様とアーシェルト様は定住せずにあちこちふらふらしていらっしゃるようで……」
「ああ、やっぱりそうなんだ……」
「ふむ。では、グラティアとテルミヌス姉弟のことは知らんかの?」
「私は知りませんが……そうですね…………ステファノス双神のことなら長兄が…………セラス兄上なら知っているでしょう。個人的に親しくしていたようですから」
セシルティスはそう言ってくれた。
……が――
「兄二人は確か音信不通じゃなかったか」
「はい。その通りです」
そこにいるかもわからないとキッパリとセシルティスは告げた。
「じゃあダメじゃん」
「ですが、セレス兄上ならばセラス兄上の居場所がわかるでしょう。セレス兄上はそういう能力がありますから。だからセレス兄上を探せば大丈夫だと思います」
セシルティスはセラスティスを探すよりは楽なはずだという。
まだまだ人探しの旅は終わらない。
「今度はセレスかぁ〜」
「お主にはそう言う能力はないのか?」
「はい。残念ながら。あったらとっくに二人を連れ戻しています」
それに二人はその能力を持っているため、セシルティスが近付くと逃げて行ってしまうという。
「そうか……なら仕方がないな」
「ふむ…………じゃが確かセレスティスは海の中にある国にいるのではないかと聞いておるが?」
「海の中?!」
アスモデウスは吃驚した。
「はい。セレス兄上は深海界にいると思います。セレス兄上の管轄がそこですから」
「今度は海の中……ですね」
「大丈夫ですよ」
何が大丈夫だというのか?
「深海界はこの三界の中では一番狭いのできっとすぐに見つかるでしょう」
「でも水の中なんだよね……」
「そうですね。水の中です」
「僕、息できないよ」
「それは俺も同じだ」
げんなりした様子のアスモデウス。
溜め息を吐くクラウス。
気持ちは同じだ。
「ああ、なるほど……そうですね…………普通の人は水の中で息が出来ませんね。ですが、セラス兄上は本当にどこにいるのか……大人しく天空界にいてくださればいいのですが……大地界にいる可能性も否定できませんし……」
セシルティスの話を聞く限りとても自由奔放なヒトのようだ。
「ああ大丈夫だよ。水の中でも呼吸が出来るような術使えるから。クーも平気だよね?」
「俺は確かに平気だが……二人は?」
クラウスは今まで黙っていた二人に声をかける。
「わしは水の中でも普通に呼吸が出来るタイプじゃから平気じゃな」
「僕も一応水の神なので水の中でも大丈夫ですよ」
どうやら二人は水中でも問題なく呼吸出来るらしい。
「レヴィって水中平気だったんだ……知らなかった…………」
「そうじゃろうな。話した事もないしの」
「でも……確かに……アービトレイアには海とか湖みたいな人が入れるような水がないから話題になりようがないよね」
「……アービトレイアには海、ないんですか?」
「うん、ないよ」
「アービトレイアはディヴァイアより遥かに狭いからのぉ」
「特に魔界と冥界以外は必要最低限の施設の他には住居区しかないからね〜」
「そうなんですか?」
「そうだよ〜。魔界と冥界は他と違って広いけど、荒れ地が広がってたり、黒い森があったり、黒い砂漠とか、氷の山脈とかばっかり。水も飲めるようなものは何もないよ。湖とかも赤かったり黒かったりどろどろしてたりしてとても泳ごうとか飲もうなんて思えないものしかないしね」
予想以上に凄そうなところだ。
「遥か昔はディヴァイアと同じような世界じゃったと聞くが……」
「それは
どれだけ昔のことなのか想像すら出来なかった。
「今じゃ水の中でも平気な
「必要無いからね」
「進化の過程における自然淘汰だな」
「なるほど」
「だからレヴィは珍しいんだよ〜」
僕みたいのが普通だとアスモデウスは言う。
「だからどうかしたのか?」
「レヴィだけ疲れなくてズルイ」
「……………………精神力使って疲れるのが嫌なだけか――」
「うん」
アスモデウスの微妙な不満だった。
「その不満の中に
「カイは水の神だから。僕とレヴィとクーは同じ
「諦めろ」
クラウスはキッパリとアスモデウスの言葉を斬り捨てた。
「はぁ……」
思いっきり溜め息を吐くアスモデウス。
「……では四人とも水の中は大丈夫ということで話を戻させていただいてよろしいでしょうか?」
今まで話を傍観していたセシルティスが声をかけた。
話は脱線しまくっていたのに今まで何も言わずに待っていてくれたようだ。
「うむ。それで問題ない」
「では話を続けさせていただきます」
セシルティスはかなり真面目なようだ
だが、話が逸れたからといって窘めるようなことなかった。
もしかしたら兄二人で慣れているのかもしれない。
「セレス兄上のいる深海界に行くためには海に行く必要があるわけですが、無闇に潜ってもたどり着けません」
「たどり着くための場所があるということか」
「そうです。この天禮の祠からかなり離れた所にあるのですが……」
セシルティスはそこで言葉を切った。
「地図はありますか?」
「うん」
言われてアスモデウスは地図を取り出した。
そして広げるとセシルティスは指を差した。
「現在地はここです」
スッ――と指を動かし、ある場所で指を止めた。
「ここにある断崖絶壁から楽に深海界に行けます」
それを見たアスモデウスは眉を寄せた。
「結構……というかかなりここから遠いね」
「それは仕方がありません」
セシルティスはそう言いながらも目的地に印を付けた。
そして最短経路を書き込む。
「う〜む…………この距離から察するにここにたどり着くまで六ヶ月ぐらいはかかりそうじゃな」
「まぁ、それは諦めるとして、ここからどうやって深海界に?」
「はい。ここから海底に下りると桃色の大きなサンゴが生えています。それを辿ると一つの街に着きます。そこから先はその街で確認してください」
いっぺんに話しても覚えきれないだろうとセシルティスは言った。
そう言われれば確かにその通りかもしれない。
「ピンクの珊瑚は道しるべ?」
「はい。街道に沿うように植えてあります」
「ああ、街路樹のようなものか」
「そうです」
「だからピンクの珊瑚を辿ると街に着くんだ」
「はい」
とりあえずこれで問題なく深海界へ行けるだろう。
後は無事にセレスティスを探すだけだ。
これの方が骨が折れそうな気もするが。
「では今日はこちらに泊まっていきますか?」
「ここに?」
「はい」
こんな何もなさそうな祠に泊まる場所などあるのだろうか?
そんな思いが顔に出ていたのか、セシルティスが答えた。
「一応客間がありますよ。ここも昔は施設として使われていたので人が暮らしていたんです」
今は誰もいないですがと言われて納得する。
「なるほど」
「食事も私の方で用意しましょう」
「え? いいんですか?」
「はい。食糧の納められている倉庫と空間を繋げているので問題なく食事は作れます」
「じゃあお言葉に甘えて!」
「お主は少し遠慮した方が良いぞ」
レヴィアタンはアスモデウスの食欲を思い出して言った。
「確かに――」
そんな不可解な会話を繰り広げるレヴィアタン達にセシルティスは言った。
「別にいくら食べてもらってもかまいませんが?」
「ホント!?」
物凄く嬉しそうなアスモデウス。
そして本当によく食べ過ぎるくらいのアスモデウスにセシルティスは顔色一つ変えることなく、そして気にする事もなく料理を振る舞ってくれた。
その気前の良さに感心する三人。
その後、四人は別々の客室に案内された。
とはいっても客室は横に並んでいるのでそう離れているわけでもない。
今日はここで休ませてもらうことになった。
バタン。
クラウスはベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
荷物はベッドの横に放る。
「…………疲れた」
自分の荷物さえ重いと感じるのはこの世界に来てからだ。
仕方がないとはいえ、結構しんどい。
クラウスはこのまま寝てしまいたかったが、このまま寝てしまえば服が皺になる。
クラウスはなんとか立ち上がると椅子の上にケープや封印符などを畳んで掛ける。
上着をその上に掛け、下に着ていたシャツも掛ける。
シャツ一枚になるとブーツを脱いでベッドにうつ伏せに寝転がる。
そして手を伸ばしてベッドの下に置いた荷物を漁った。
目的の物はすぐに見つかりそれをベッドの上に引き上げ、枕と一緒に抱え込んだ。
クラウスの探していたものはクッションだった。
それを抱き込んで寝始めるクラウス。
背中に翼が生えているので仰向けには眠れない。
苦しくないように枕とクッションを抱えて眠るのはいつものことだった。