――グラキエースとアシリエルがアービトレイアと連絡を取りに行ってから数日……
グリンフィールはなんとか完全なヒトの姿になれるほど回復していた。
そんな時、二人は帰って来た。
二人が帰って来てすぐに会議が行われた。
メンバーは十天使と魔王二人、そして体調の良くなって来たグリンフィールだ。
この十三人で行われた。
「――それで、魔王方のご意見は?」
「結論から言うと、アービトレイアからの干渉は不可能だ」
「不可能? 現王様、それはどういう――」
向こうにはバール=ゼブルがいる。ベリアルやベヒモスならともかく、彼が出来ないなどという事があるのだろうか?
グリンフィールの顔にはしっかりとそう書いてあった。
「とても厄介な形で〈ミチ〉を創っているようです」
「どんなふうに?」
「アービトレイアを経由せずに創ったものらしい」
「これはバール=ゼブルが直接調べてくれた情報なので間違いはありません」
「ああ、確かに……淵王は封印系ですが探査もそれなりに得意でしたね」
「これがアスモデウスならもっと詳しくわかったのでしょうけれど――」
「アスモデウス?」
それを聞いたグラキエースが怪訝な顔をした。
「アイツにそんな能力あったのか?」
アスモデウスは力技だけだと思っていたとグラキエース。
「彼には魔眼がありますから」
グラキエースが知っているアスモデウスは冥界の魔王になる前のアスモデウスだ。今のアスモデウスをよく知らないようだ。
「アイツ……魔眼持ちだったのか……」
「情報搾取が能力なので戦闘には全く役に立たないようですが」
「アスモデウスはそのようなものなくても十分力が強いのでこれ以上強くなるのも考えものですが――」
「アイツは特殊だからな」
「でも、七大魔王最強というのはダテではありません。
居てもやる気にかけるのでパッと見騙されやすいですが、彼は……冥王アスモデウスは……昔は随分といろいろやっていましたし――」
今の姿しか知らない者には想像も出来ない。
「まぁ、今いないヤツをアテにしてもしょうがない。
聞くところによると、イセリアルに行っているんだろう?」
「ええ」
「レッドベリル様を探しに行っています」
「なら、数年……いや、下手すると十数年は帰ってこないかもしれない」
「それは――」
「覚悟をしておくべきだ。あのお方を見つけるのは……カンタンなことではない。
冷やかに言い放つグラキエース。
「そ……そうですね……今、アービトレイアには年長者がいませんから……頼りになるのはバール=ゼブルだけです」
「手遅れになる様なヘマはすまい。あれでも凶悪な深淵を守る存在なんだからな」
いつもやる気のまるでない魔王。
だが、こうして話をしてみると彼も、十分にその責を負うにふさわしい力を持っているようだ。
寝てばかりいるため、かなりわかりにくいが……
ダテに魔王はやっていないということだろう。
「封印出来ない以上、あれは見張り続けるしかないわけですが、それだとジリ貧ですね」
「そうですね。我々天使は何の役にも立ちませんから――」
「現状ではあれに誰も近づけないように光の守護天使に結界を張らせるくらいしかできないしな」
「今、ここディヴァイアにいる
「圧倒的に戦力が足りません」
「だな」
今、現状にあるコマは少なすぎる。
「今もグレシネークが怪我で戦線離脱したグリンフィールの代わりに不慣れな魔物退治をしているわけだしな」
「護衛天使もつけましたが、どれほど役に立てるか分かりませんしね」
「しかたありません。天使は本当に戦闘向きではありませんから」
「でも……今はそんなことを言っている場合ではありません」
「少ない人員でいかにしてこの世界を守るか」
「重要なのはそこか」
「ええ――」
こうしていても話は進まない。
しかたのないことだろう。
天使には、荷が重すぎる。
「そう……」
「ん……」
グラキエースはなんとなくそちらに顔を向けた。
「オマエ――」
ガタンッ!!
グラキエースは立ち上がると
「大丈夫……ではないな」
「え?」
それを聞いた
「オマエ……働き過ぎだろう」
「……具合が悪かったんですか?」
「通りでほとんど喋らないハズです」
「最近、書類に埋もれていたからな」
「疲れていても当然ですね」
「でもよくわかったな」
「そうですね。顔色が悪いわけでも眼の下にクマが出来てるわけでもない」
確かに、
だが――
「力の封印――――見た目を偽っているのか」
「――!!――」
弾かれたように顔を上げた。
「……どうして――」
「これでも魔王だ。見くびるな」
「う――」
「ムリすると倒れるぞ」
「う――」
そう言われて
そしてバレでしまい観念したのか――
ポフン。
元々の髪の色は黄金色だったようだ。
そして非常に顔色が悪い……もちろん目の下にはクマがある。
その顔色は青白いと言って差し支えないだろう。
座っているにもかかわらずフラフラしている
「うう……僕、もう年かな」
この見た目のせいで忘れがちだが、
いつ、何があるかわからない。
「そういえば……
シーン――
グリンフィールの言葉に辺りは静かになった。
「ム、ムリせず休め!」
「頼り切っていた我々が言う事じゃないが」
途端に慌て始める十天使たち。
「そうだね。僕はまだ死ねない。
だが、世界は
ダン!!
部屋の扉が乱暴に開けられ、一人の天使が駆け込んで来た。
「大変です! 〈ミチ〉から……〈ミチ〉から堕天使が出てきました!!」
「何!?」
「とうとう……魔物以外が出て来た――」
「はい」
「グラキエース!」
「解っている! グリンフィールも来い!」
「はい!」
まだ本調子ではないが、そうも言ってられない。
…… ε ι ξ ς ε ι σ ε ξ δ ε φ ε ς μ α σ σ τ λ μ ε ι ξ ε π ο ε σ ι ε α υ ζ δ ε ς α ξ δ ε ς ε ξ σ ε ι τ ε φ ο ξ ς α υ ν
「僕も連れて行ってください!」
だが、止める間もなく術は完成する。
――空間を越える旅人の
グラキエースの術はアシリエル、グリンフィールと共に
「いきなり入ってくるな! 危ないだろうが!!」
着いた早々グラキエースの叱咤が飛んだ。
「ごめんなさい……でも、堕天使って聞いて――」
黙って見送ることが出来なかったようだ。
「うっ――」
――むせ返る様な血の匂い……
「これは……酷いな……」
さすがのグリンフィールも顔をしかめた。
そこには、たくさんの天使たちが殺されていた。
立っているのは……
そこに立っているのは……グレシネークと……一人の堕天使だけだった。
「うぐっ――」
「グレシネーク!」
グラキエースが立っているのがやっとといった感じのグレシネークを支えた。
「も……もうしわけ…………ぐはっ――」
血を吐いた。
「グレシネーク!」
「お……お気を付け下さい……あ、あの…………あの男……ただの堕天使では――」
「我が半身にして我が力の欠片――
我に従い姿をなせ――
<断罪の大鎌エンタウプトゥング>」
グリンフィールは武器を召喚するとグラキエースとグレシネークの前に立ち武器を構えた。
「何者だ! ただの堕天使ではないだろう? いくらグレシネークが戦闘が苦手だからといってただの堕天使にやられたりするものか!!」
「あ……」
一歩、後ろに下がる。
「ど、どうして――」
そして崩れ落ちた。
側にいたアシリエルは慌てて
だが、
震えながら何故と言い続ける。
「
「どうして……」
「へえ…………まだ生きてたんだ?」
場違いなほど明るい声が響いた。
心の底から愉しそうな、そんな声――
くすくすと、嗤う、声――
「年齢的にさすがにくたばったかと思ってたけど……意外としぶといね?」
そんな場違いな声に反応せず、ただ、嘘だと呟く
「金髪だったから、名前聞くまでわからなかったよ。
血に染まった剣を握り、自身も返り血を浴び赤く染まった男……
その男は、顔についていた血をペロリと舐めた。
「……この堕天使は…………ディヴァイアの、天界出身者ということか」
この男は
そして、
「くく……そんなにオレに遇えて嬉しい?
狂ったような笑みを浮かべた。
「どうして――」
「ん?」
「どうして、あなたが、ここにいるんですか? あなたは……あなたは、確かに、死んだはずなのに!? そしてその魂は――――深淵界に送られたはずなのに……何故? どうして? ここに!?」
「どうして?」
男は不思議そうに首をかしげた。
「それを聞くの?」
「当り前です! ここに、いられるハズが――」
「なかったら今ここに、
ふふっ――と、笑う男。
「…………君は、何?」
「うん? 堕天使だけど?」
見て分からない? という男。
「違う。君から感じるのは……おぞましいほどの負の力――ただの堕天使であるはずがない!」
「へぇ……解る
そういうと男はピシっと姿勢を正した。
「オレは
血塗れの男はそう名乗った。
愉しそうに微笑んで――