次の競技は運=B
「運……かぁ――」
 アスモデウスのテンションが思いっきり下がった。
「どうかしたのか?」
 それを不思議そうに見つめるクラウスと海水(かいな)
「アスモデウス、どうかしたのか?」
「うん……ちょっとね」
「アスモデウスは運に見放されておるからのぉ」
「運に……見放されてる?」
「それって――」
「先天的な不幸属性が付与されておる」
 それを聞いた二人は微妙な顔でアスモデウスを見た。
「この体質が憎い」
 忌々しそうに呟いた。
「本当に?」
「本当じゃ」
「僕って、何かと昔から運が良くなかったんだよね……」
 ず〜ん、と沈んでいる。
「な、何かあったんですか?」
「……不幸の始まりは冥王に目をつけられたことだよね」
「冥王? 先代のか?」
「そう……先代の冥王、アジ=ダハーカ」
「目をつけられたって……何かしたのか?」
「僕はしたつもりはないんだけど……」
「しておったじゃろうが」
「いつ!?」
 レヴィアタンは呆れた。
「お主……自覚がなかったのか?」
「へ?」
「物凄い噂になっておったのを、知らなかったのか?」
「うわ……さ? 噂って?」
 本当にわからないようだ。
 それを聞いたレヴィアタンは、
「冥界どころが魔界でも有名だったというに」
 何かしただろうかと考え始めた。
「『銀色の魔獣と共に魔族狩りをする蒼髪緑眼の男』がいるという噂は有名じゃった」
「うっそ――」
 本人に目立っているつもりは全くなかったらしい。
「冥界では知らぬものなし。魔界での知名度もかなりのものじゃった」
「そんなに有名だったのぉ!?」
 今明かされる衝撃の事実……だった。アスモデウスにとっては。
「目立ってるつもりなんて――」
「目立つじゃろうが」
 レヴィアタンはきっぱりと切り捨てた。
「銀色の魔獣と、その魔獣につき従う大勢の魔獣に囲まれておれば」
「あ、ああ――!!」
 今気付いたようだ。
「そっか……リンドヴルム……目立ってたんだ……」
「お主もな」
 意外と抜けているところもあるんだなと、二人は思った。




「さーて、次の競技は運=I 運も実力のうちということだぁ!」
 相変わらずテンションが高い。
「運もぉ〜?」
 運も入るならアスモデウスの総合戦力はかなり下がりそうだ。
「運で少々下がっても他の要素が高いから問題なさそうだな……」
「確かに」
 アスモデウスなら無理やり何とかしそうだ。
「その運を調べるのはこの箱だぁ!!」
 それは何の変哲もないただの箱に見えた。
「この箱の中には数字の書かれたカードが入っている。中身は一・二・四・六・八・十の六種類だ!」
「あの箱からどれを引いたかで運を決めるわけか」
「ただし! 箱の中身は六枚じゃない! 全部で百二十枚入っている!!」
「うげ――」
 アスモデウスが露骨に嫌そうな顔をした。
「当然、数字が高い方が入っている枚数は少ない!」
「だろうな」
 当然だろう。
 運を見るのだから。
「そして魔力遮断装置もついてるからイカサマは出来ないぞぉ!」
「意外と高性能なんだ。あの箱」
「見た目によらないな」
「このカードを順番は決まっていない。心の準備が出来た者からどんと来ーい!!」
 そう言って箱をしゃかしゃか振っている司会。

 誰も動かない。

「まぁ……一番最初って勇気がいるよね」
「そうか? いつ引いても同じだろう?」
「ええぇ! 違いますよ」
「確かに、最初引くと一を引く確率がかなり高そうじゃな」
「ですよね? 一≠ニか、二≠ニかを先に引いていくと良い数字を引く確率が後の方になるに連れて上がって行きますよね?」
「じゃから誰も動かんのだろう」
 考えることは皆一緒だ。
「いや、同じだな」
 それでもクラウスはそう言った。
「僕も同じかな」
 それにアスモデウスも同意した。
「僕ってこういうの絶対にいつ引いても一≠引くし」
 アスモデウスはすでに諦めていた。
「俺も、こういうものはいつ引いても同じ数字が出る」
「クーも?」
「ああ、だから順番なんて関係ない」
 そう言ってスタスタとカードを引きに向かった。
 それについて行くアスモデウス。
「おお! 一番最初に引くのはミステリアスなインテリ魔術師美青年かぁ!」
 その言い方はやめて欲しかった。
 溜息を吐きつつ差し出された箱に何の躊躇いもなく手を突っ込み手じかな所にあるカードを掴んで出す。
 中で選ぶとか、そういった行動を全くとらなかった。
「クーって、大胆だね」
「言ったろ? いつ引いても、同じだって」
「うん」
「悩んでも何故か結果は変わらないんだ」
 そう言ってクラウスが見せてくれたのは……

「十=c…」

 それを見て唖然とした。
「凄い! 凄いぞ!! ミステリアスなインテリ魔術師美青年はこの箱の中にたった五枚しか入っていない最高カードを引き当てた!!」
 会場がざわめいた。
「いつ引いてもって――」
 その瞬間、アスモデウスは微妙な結論に至った。
「クーって……もしかして……昔から…………運は、いいの?」
「何故か」
 それは肯定だった。
「遺跡にトラップ、あるだろう?」
「うん。大抵ね」
「他人がかかっても俺がトラップ踏み抜くことは全くないんだ」
「へぇ……」
「カードゲームでも大抵良いカードばかりが来るし……」
 そこでアスモデウスは思い出した。
 以前やったポーカーも勝ち続けていた。
 クラウスは、アスモデウスと正反対の性質なのだ。

 つまり、強運。

「……羨ましい」
 アスモデウスは心底そう思った。
 溜息を吐きながら、箱を見た。
「お次は物憂げな表情をした美青年かな?」
 差し出された箱に手を突っ込む。
 アスモデウスも選ぶ必要がない。
 どんなに悩んでも引くのは――
「絶対一≠ネんだよ」
 アスモデウスの言うとおり、それは一≠セった。
「う〜ん、残念!」
 取り敢えず二人は引き終わったので二人のいる方に戻った。
「凄いですね。クラウスさん」
「うむ。一発目であれとは――」
 それを聞いたアスモデウスはレヴィアタンに泣きついた。
「うわぁああん! レヴィ!」
「のぉ! な、アスモデウスぅ!?」
「クーが、クーがぁ!!」
 アスモデウスの話を聞いた二人は何故アスモデウスが悲痛な顔をしているのか理解した。
「強運か……アスモデウスと正反対じゃな」
「僕にもその強運をわけて欲しい!!」

 本気だ。
 アスモデウスはかなり本気だった。

 それは無理だろうと二人は思った。
「うむ。しかし――」
「しかし?」
「クラウスの側におればアスモデウスの不幸も中和されるかも知れんぞ」
「中和……」
「そういえば……クーと行動するときは何の収穫もなかったり、不幸な目に遭ったりしなかった、かも?」
 思い返してみるとそうだ。
 一人だと情報収集もスカが多いのだが……
「そういえば……」
 クラウスの表情が陰った。
「いつもなら絶対に起こらないようなことが起こったな」
「それは?」
「人相悪そうな奴に絡まれた」
 それを聞いたアスモデウスは黙った。
「僕は、あの程度で済んだことに喜んだんだけど……あれって――」
 クラウス一人だと起こらないことだったらしい。
「中和されておるの」
 きっぱりと言った。
「僕って――」
「ちゅ、中和されて良かったですね」
 だが、何の慰めにもならなかった。
 思いっきり落ち込んでいるアスモデウス。
「さて、わしらも引きに行くか」
 そう言ってレヴィアタンは海水(かいな)を連れて司会の所に向かった。
「まぁ、頑張れ」
「…………うん」
 二人がいなくなってしまったので、適当な慰めの言葉をかけた。
 だが、それも二人が帰って来た時に無意味なものとなった。
「どうだった?」
 戻って来た二人に声をかけた。

 だが、二人は微妙な顔をしている。

「どうかしたのか?」
「いや……」
「そのぉ――」
 明らかに言いにくそうだ。
 そしてクラウスは二人の持っているカードで気付く。
 言えない理由に。
「どうかしたの? 二人も悪かったの?」
 悪かったのならばすぎに言えるはずだ。
 言えないのは……
「い、いえ――」
 そう言って海水(かいな)が渡したのは六≠ニかかれたカードだった。
 それを見たアスモデウスは沈黙した。
「このカードって――」
「大体真ん中だが……」
 上から数えた方が早い。
 そしてレヴィアタンのは――
「……………………ッ!!」
 アスモデウスはクラウスに泣きついた。
「なんで皆ばっかりー!!!」
 レヴィアタンの持っていたのは八=B
 アスモデウスが落ち込むことが分かりきっていたため言いにくかったのだ。
「さて、全員引き終わったのでネタばらしをしよう!!」
 司会者が言わなくてもいい事を言い放った。
「十≠フカードは五枚、八≠フカードは十枚、六≠フカードは十五枚、四≠フカードは二十枚、二≠フカードは三十枚、一≠フカードは四十枚入っていたぁ!」
 それを聞いたアスモデウスは計算した。
「――ということは、十≠引く確率が約四パーセント、八≠引く確率が約八パーセント、六≠引く確率が約十三パーセント、四≠引く確率が約十七パーセント、二≠引く確率が二十五パーセント、一≠引く確率が約三十三パーセント…………」
 あの箱の中の三分の一は最低数字の一≠ェ入っていた。
 だが、確率的には約三十三パーセント。
 他のを引けてもいい数字だ。
 それに比べて……
 十≠引くクラウスだけでなく、八≠引いたレヴィアタンも驚異的な数字と言える。
 海水(かいな)も良い方だ。
 クラウスとレヴィアタンは同時に思った。

 余計な事を――!!

 この後、沈んだアスモデウスを元気づけるのにかなり苦労した。