運試しも終わり次の競技は知=B
「今度は知かぁ」
なんとか浮上したアスモデウスは呟いた。
「また何かあるのか?」
「僕考えるの嫌いなんだよね」
苦手ではなく、嫌い……
「やれなくはないということだな?」
鋭くクラウスに突っ込まれて視線をそらした。
「……一応」
「余り期待するな」
それをキッパリとレヴィアタンが斬って捨てた。
「レヴィ?」
「アスモデウスは基本的に追い詰められてから必死になって片付けるタイプじゃ」
「ああ、なるほど――」
「確かに、そんな感じが……」
「長期休暇に出た課題を最終日まで放置しておいて慌てるタイプだな」
「うむ。学校というくくりでなら間違っておらん」
ようするにやらない。
知を試されるがおそらく…………いや、間違いなく自分で考えたりはしないだろう。
「はぁ……僕もあまりそういうのは得意では――」
「心配ないよ」
「え?」
考える事を放棄することがほぼ確定のアスモデウスは言い切った。
「レヴィとクーがいるから!」
どこまでも他人任せだが、確かに、二人は頭が良い。
そんなアスモデウスを見てレヴィアタンとクラウスは同時に溜息を吐いた。
「まぁ、良いか」
「そうじゃな」
やけにあっさりと二人は引いた。
「二人とも、物わかりがいいね」
「アスモデウスには次に頑張ってもらえばいいからな」
「うむ」
「次?」
なんのことだと思っていると――
「力」
何をさせられるのかは知らないが、きっと役に立つだろう。
「あー、うん。力仕事は得意だけど――」
すでにレヴィアタンだけでなくクラウスにまでしっかりとそう認識されていた。
「さて、競技もついに三つ目だぁ!」
あの司会は終始あのテンションを保っていないといけないのか?
意外と常人には無理そうだ。
「次の競技は知=I 知はこの会場から飛び出してもらうぞぉ!!」
一体何をさせる気なのだろうか?
「この近くにはこの競技の為だけに維持されている洞穴の一つがある!」
「わざわざ?」
「……随分手間がかかっておるようじゃな」
「しかも、洞穴の一つって――」
一体この祭典の為にどれだけの洞穴を管理しているのだろうか?
本当に力が入っている。
「その名も知識の洞穴!!」
まんまだ。
ネーミングセンスのかけらも存在しない。
「その洞穴には様々な仕掛けがほどこしてある! その仕掛けを解いて早く帰って来たものから高得点!」
司会がそう話している間に地図が一人一人に配られた。
それを見た四人は押し黙った。
「これ……地図?」
とても地図に見えない。
奇怪な記号が書いてある。
なんとなく裏返して見るとヒントらしきものまで書かれていた。
「参加者は配られた地図の暗号を解読し、知識の洞穴の最奥にあるメダルを持ってきてもらうぞ!」
行く前から戦いは始まっているようだ。
「ちなみに参加者同士の妨害なんかは一切関与しないからそのつもりで!」
乱闘妨害上等ということか――
「なるほど……道理で戦闘能力高そうなのが多いわけだ」
「自分で考えられない人はすでに解けそうな人に目をつけてそうだね」
「確かに――」
すでにクラウスやレヴィアタンに何人かが視線を向けている。
「さぁ! スタ――――トぉ!!!!!」
開始の合図が出るが、誰も動かない。
それはそうだろう。
謎が解けなければ現場にいけない。
「アスモデウス」
「何?」
「地図を貸せ」
「うん」
何のためらいもなく渡した。
クラウスはしばらく裏と表を同時に見ていた。
レヴィアタンも隣で首を捻っている。
そして――
「ああ、なるほど」
「え!?」
始まってからまだ数分しか経っていない。
「もしかして……もう……」
「解けたが?」
あっさりと言い切ったクラウスにアスモデウスは驚きを隠せなかった。
レヴィアタンも驚いたようにクラウスを見ている。
「早すぎじゃ……」
「俺、古い文献大好きなんだ」
「読むのが?」
「うん」
「あー、もしかして……」
「うん。解読するのも得意だ」
道理で早いわけだ。
「で、場所は?」
そこで困ったような顔をするクラウス。
そう……彼は方向音痴だ。
それに気付いた三人はどうするべきかと考える。
「アスモデウス、レヴィアタン」
「何?」
「む?」
ちょいちょいと手招きされた。
そして、翻訳機を外すとペラペラと喋り始めた。
ああ、この手が――
話す言葉が分からなかったら意味がないだろう。
クラウスから聞き終わったアスモデウスはちらりと周囲を見た。
「ついてこられないように引き離さないとね」
そう言ってちょいちょいと
「クラウス」
声をかけられてクラウスは翼を出した。
飛んでついていく方が早い。
「じゃ、行くね〜」
この辺りの地図はすでに頭に叩き込んである。
目的地は分かっている。
そこに向かって一目散に走ることにした。
飛べるが、それをするつもりはないらしい。
クラウスは場所を理解したアスモデウスとレヴィアタンの後ろを飛んでついていく。
だがさすがにこの二人は早い。
飛びなれていないクラウスは必死に二人について行かなければならなかった。
何とか周囲についてこられることなく洞穴に着いた四人。
「疲れる」
思わず呟くほど二人は早かった。
「まぁまぁ、まだ終わってないから」
「疲れないのか?」
「クーって、背負ってるのを思わず忘れるくらい軽いから平気」
親指をグッと立てた。
「さて、中はどのようになっておるかのぉ」
中はちょっと薄暗い。
だが、中に入ると自動で備え付けてあるランプがついた。
「へぇ……人が来たら光るようになってるんだ」
本当に無駄に力が入っているコンテストだ。
奥に行くと地図に施してあったのと同じような文字が書いてある。
二股に分かれた道。
答えだと思う方に行けということだろう。
「これも同じか?」
「同じみたいだな」
施してある暗号は全て地図と同じものだった。
ここにこれたのなら問題なく解けるようになっている。
「読んで」
言われるままに読み上げる。
ちゃんと理解できる言葉だった。
「じゃあこっちだね」
「そうじゃな」
そのまま問題を解きながら進むと、ちょっとした仕掛けが施してある部屋に着いた。
「これも解くの?」
「みたいじゃな」
「ふ〜ん」
クラウスの言うとおりに仕掛けを解いた。
そしてアスモデウスが呟く。
「僕たち四人いるから仕掛けとくのも楽勝だけど一人だとキツくない?」
「かもしれないな」
しかし、他人と協力できるかというとかなり難しいと思われる。
「あ、ここが一番奥みたいですよ」
「ホント?」
「これ持って帰ればいいのかな?」
一つずつ手に取る。
「さて、これを歩いて戻るのは……面倒だね」
「これは先に行ってメダルを持って来たものから奪っても問題ないのだろうな」
そういえば、関与しないと言っていた。
「ショートカットしてもいいよね?」
「良い。他の参加者と鉢合わせしたら面倒じゃ」
全員一致で決まった。
四人はアスモデウスの空間移動で洞穴を後にした。
そして会場の少し離れた所に移動すると、会場に戻った。
「おおう! 誰か戻って来たぞ!」
目ざとく司会に見つかった。
「あれは、ミステリアスなインテリ魔術師美青年!」
すっかり司会にそう認識されてしまったようだ。
溜息を吐きつつゴールする。
勿論一番最初は解読したクラウス。
レヴィアタン、
会場にはさすがにもう誰もいない。
全員外には行ったのだろう。
地図が解読できたのか、妨害するのか乱闘するのかはしらないが。
「いやぁ、早いですね〜」
「クーが解読得意だったからね」
「これでも専門家に作ってもらった暗号なのに!」
司会の話によると毎年暗号は変わるらしい。
ついでに洞穴も。
過去最短だとクラウスは褒められていた。
そしてもしよければ暗号を! と言われてクラウスは運営委員に連れ去られた。
「しばらく帰ってこれなさそうだね」
「他の連中も帰ってこんじゃろう」
「じゃあしばらく休憩だ」
「そうじゃな」
こうして三人はその辺に座ってまったりとし始めた。
三時間後――
いろいろクラウスが運営委員から解放されて帰ってくると、ハイテンションな司会が結果を発表していた。
「全員戻ったのか?」
「あ、そうみたい」
「クラウスはどうじゃった?」
それにクラウスは親指を立てて答えた。
「バッチリ」
それを聞いた三人は思う。
きっと来年の暗号は今年なんか比べ物にならないほど難しい物になっているだろうと……
確信が出来た。