とうとうコンテストも最終競技。
 次は総合=B
 何をやらされるのか、想像もつかない。
「今までのを見る限り楽ではなさそうだが――」
「頑張れば何とかなるよ、きっと」
 そうは言われても不安になるのは勿論海水(かいな)だ。
 海水(かいな)はこの三人ほどスペックが高くないので仕方がない。

「さぁ! コンテストも最後だぁ!」

 いよいよこのくだらないイベントも終わる。
 終わらせられるとクラウスとレヴィアタンは思った。

「最後は闘技場でモンスターと戦ってもらうぞぉ!」

 それを聞いた瞬間海水(かいな)の表情が泣きそうになった。
海水(かいな)
「うぇ……僕は無理です」
「いや、そんなことはないだろう」
「そんなことあります」
 慰めなのか否定してくるクラウスに首を振って答えた。
「紋章銃、あるだろう?」
「え? あ、はい」
 それはクラウスから預かっている武器だ。
「モンスターなら撃っても良心は痛まないだろう」
「えーと、それは――」
 確かにそうだ。
 だが――
「僕、クラウスさんほど射撃は上手くないんですが――」
 クラウスは笑った。
「大丈夫。きっと動きの鈍いのもいるさ」
「そうでしょうか?」
 この上なく不安だった。

「モンスターには首に点数の書かれた札をつけている! そのモンスターを倒し札を取ったら終了だぁ!!!」

「アスモデウスとレヴィアタンは瞬殺しそうだな」
「余裕!」
 ビシッと指を立てられた。

「闘技場には様々なモンスターが放し飼い! 倒したもん勝ちだぁ!!」

「へぇ……強そうなの選んで倒せばいいのか――」
「早い者勝ちということは一人一人戦わせるわけではないな」
 その言葉に少しだけ安心する海水(かいな)
「仕留められそうになかったらアスモデウスかレヴィアタンに足止めして――」
 そこでクラウスは言葉を切った。
「いや、俺が足止めしてやる」
 何故か言葉を撤回した。
「なんで?」
 それを不思議そうに尋ねるアスモデウス。
「いや……アスモデウスとレヴィアタンじゃ足止めでは済まない気が――」
 確かに、誤って殺しそうだ。
「……ふむ。ありえるの」
「うっかりって、よくあるよね」
 それを聞いた海水(かいな)はクラウスに頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「任せろ」
 クラウスは肉体派じゃないが頼りになる術師だ。
 ここは信じて良い。
 そして司会に案内されるままに闘技場に移動した。




 闘技場は思っていた以上に広かった。
「うわぁ……さすがにこんなイベントに使用するだけあっておっきいねぇ……」
「あれだけ魔物が暴れておってもまだまだ余裕がありそうじゃな」
「見て見て! ドラゴンがいる!」
「あれが、最高得点か」
「そう思う?」
「見た所、一番札の点数が高い」
 それにぎょっとするアスモデウス。
「み、見える……の?」
 それを聞いたクラウスは何を言ってるんだという表情をする。
「当り前だろう」
 アスモデウスはレヴィアタンの腕を引っ張ってこそこそと話し始める。
「レヴィ……見える?」
「わしでは何か文字がかかれておるなぁぐらいにしか見えん。お主は?」
「僕なんか札の輪郭までしかわからないよ」
 アスモデウスよりレヴィアタンの方が視力が良いらしい。
 だが、もっと視力が良いのがいる。
「へぇ……凄いです。クラウスさん」
「そうか?」
「僕なんて札がどこについてるのかもわかりません」
 素直な海水(かいな)はクラウスの異常な視力を何の疑問を持つことなく称える。
「クーって、目が良いね」
「そうか……いや、そうかもしれない」
 そう言われてクラウスは否定しようとした。
 だが、何かに思いいたって肯定した。
「昔は今ほど視力は良くなかったんだが――」
 これは間違いなくあれだろう。
 アスモデウスとレヴィアタンは顔を見合わせた。
「困らないから別にかまわないが」
 本人はあっさりとしたものだ。

「さて! 準備が整ったぁ!! このバトルに勝利して栄光をつかむのは誰だぁ!!」

 その言葉に周囲が殺気だった。
 それに怯える海水(かいな)
「これは……本当にただの美男子コンテストじゃないな」
 その範囲を軽〜く超えている。
「優男がいないはずだ」
 ただの美形ではこれを勝ち抜くのは無理だろう。
「まぁ、僕らの敵じゃないけどね」
「うむ」
 そう言ってアスモデウスは元気に一番の大物と思しきドラゴンに向かっていく。
 勿論槍装備だ。
 切れ味が良くても全く困らないので蒼刃の長槍フェルツァーグンだ。
「えいっ!」
 軽い調子でその辺の魔物を足蹴にしてドラゴンの頭上に飛び上がる。
 そして容赦なくその手に持っている槍を振るった。

 バシャッ!!

 派手な血飛沫が舞い上がる。
 一撃でドラゴンを仕留めたアスモデウスの手には、いつの間に取ったのか札が握られていた。
「さすがに、この程度だと一撃か」
 わかっていたことだが。
 アスモデウス本人は全く返り血を浴びていないが、周囲にいた他の参加者たちにはかかっている。
 憐れな。
「どれ、わしも行くか」
 近所に散歩にでも行くような調子でレヴィアタンが言った。
 そして彼が狙うのもドラゴン。
 彼はアスモデウスのように跳躍したりしなかった。
 そう、下から投げた。
 レヴィアタンの武器は確かに双刀だったが、投具ではなかったはずだ。
 そう思ったがレヴィアタンの狙いは正確だった。
 一撃目で首を斬り裂いた。

「ゴォオォオォオォオォォオォオ…………!!!!!」


 唸り声のような音が鼓膜を振動させた。
 そして呻き暴れ始めるドラゴンの首に残っている短剣に中てるように二撃目を入れる。
 短刀は軽々と首を刎ね飛ばした。
 そして落下してきた札を手に取る。
 何ともレヴィアタンらしいスマートな戦い方だ。
 そんな二人を見てからクラウスは空を見た。
 空には大きな鳥が飛んでいる。
「大丈夫か? 海水(かいな)?」
「怖いです」
 下にいる獣は意外と動きが素早い。
 それに他に人もいる。
 アスモデウスとレヴィアタンは標的を倒してしまったため場外に出ている。
 札を取ったら速やかに外に出ること。
 それがルールだ。
 海水(かいな)を護るように立つクラウス。
 さすがにちょっと危険なので手には武器を持っている。
 瀞亜(せあ)から託された守護の剣(シュッツ=シュベーアト)だ。
 使うこともないと思ってはいたが、あると確かに便利だ。
 クラウスは獣の攻撃を守護の剣(シュッツ=シュベーアト)で受け流す。
 このままでは埒が明かない。
 海水(かいな)を無事に外に出すため、自分が先に敵を仕留めるわけにはいかないクラウスは敵を……的を作ることにした。
 何、クラウスにとっては簡単なことだ。
 中てられなければ、中てられるようにすればいい。
 そう判断したクラウスの次の行動は素早かった。

   ……  δ ε ς υ ξ φ ε ς α ξ δ ε ς μ ι γ θ ε σ α ς η φ ο ξ δ ε ς σ τ ε ι ξ σ τ α τ υ ε δ ι ε ξ ι γ θ τ ζ υ ξ λ τ ι ο ξ ι ε ς τ

 剣で獣の攻撃を往なしながら海水(かいな)を護る。
 そして海水(かいな)に注意を向けつつも印を素早く組んだ。
   ――動かぬ石像の不変の(ひつぎ)


 調度近くに来た大型の狼のような獣に術を放つ。
「いけ、海水(かいな)
「は、はい!」
 足を引っ張っていることは確実で、これ以上クラウスに負担をかけたくなかった海水(かいな)は迷わなかった。
 海水(かいな)は構え引き金を引いた。

 バァン!!

 動かなければ、脅威になりえない。
 胴体に当たった。
 海水(かいな)の腕にしては良くやった方だ。
 だが、急所に入ったわけではない。
 そう判断したクラウスは言った。
「もう一発だ」
「はい!」
 撃った後の衝撃が酷いが、そうも言ってられない。
 海水(かいな)は言われたとおりにもう一発お見舞いする。
 今度は、良い角度で入った。
 クラウスの術が解けたのか、解いたのか、獣は崩れ落ちた。
「はぁ……」
 銃を握ったままへたり込む海水(かいな)
 クラウスはそれを見て素早く札を回収して海水(かいな)に渡した。
「早く外へ」
「はい」
 獣たちは大きな音に驚いて警戒している。
 今ならば安全に外に行けるはずだ。
 海水(かいな)はクラウスに頭を下げるとその場を後にした。
「さて、後は俺だけだな」
 空を見上げる。
 相変わらず空には無傷の大きな鳥が飛んでいる。
「あれでいいか……」
 クラウスは狙いを定めた。

   ……  δ ε ς ζ α μ σ γ θ ε γ μ ο χ ξ δ ε ξ ι γ θ φ ε ς τ ς α υ ν τ β ι ξ υ ξ δ χ ι ς δ φ ε ς χ ι ς ς τ

 クラウス一人なら攻撃を受けとめるための剣は必要ない。
 避ければいいだけだ。
 それが難しいのは当たり前だ。
 だがクラウスは軽く攻撃をかわす。
   ――夢現(ゆめうつつ)(まど)う偽りの道化



 紫色の光が鳥を襲う。
 でも、それだけだ。
 そう……それだけ。

 ドサッ!!

 それだけなのに、すでに絶命していた。
「久しぶりだが、なんだか前に使った時より楽になった気が――」
 精神の紋章術は得意中の得意だ。
 以前よりも負担が軽い様な気がしたが、ランクが低いだけかと思いなおす。
 そして札を回収して場外に出た。




「見た?」
「無論じゃ」
 少し離れた所からアスモデウスとレヴィアタンがクラウスを見ていた。
「あれは……」
「やはり、そういうことなのじゃろう」
「だよね」
 他に言いようがない。
 ――――だから、としか言いようがないのだ。
 彼は……
「彼は……重い物を背負ってるね」
「わしらよりも、な」
 駆け寄ってくる海水(かいな)に片手を上げて答えると、その話を打ち切った。