「時空神・
「ふふ……そう。その
「何故ここに?」
「う〜ん……気になったから?」
それを聞いたグラキエースは不思議そうな顔をした。
「関係ないのに?」
「関係無くても気になったんだよ」
「……アスモデウスが何か言ったのですか?」
「ううん。違う」
即座にそれを否定した。
「では――?」
「気になったのは気になったんだけど……アスモデウスは関係ないよ」
「気になった? 誰が?」
「人物だと思うの?」
「思うな。その言い回しからすると、な」
くすりと
「そう、その通り。ボクはちょっとある人物が気になってね」
「誰が気になったんだ? そんなに変ったメンツじゃなかっただろう?」
「いいや、変わっていたよ? とっても、ね」
含みのある言い方だ。
「彼ほどの逸材は……そういない」
「逸材?」
「そう。銀髪金眼の彼」
それを聞いたアシリエルは眉を寄せた。
「彼、ですか?」
「誰だ?」
ずっと寝ていたグラキエースににはその人物が分からない。
「ですが……彼は――」
「知っているのか?」
「現世界で生まれた
「ああ、なるほど」
この中でクラウスに直接会ったことがあるのはアシリエルだけだ。
だからそう言われるまでわからなかった。
「――というか、変わっていたのか?」
「いえ……私が見る限りではごく普通の
「やっぱりわからないんだ」
「やっぱり?」
「うん。アスモデウスも気付いていなかったようだし」
「レヴィアタンは?」
「彼もわからなかったみたいだよ」
「貴方だからわかるのですか?」
「う〜ん……ボクが、というよりは、ボクたち惑星神が、かな」
それを聞いたグラキエースが疑問を投げかけた。
「オレたちと見え方が違うのか?」
「う〜ん……そうだねぇ……識っているものと、識らないものの違いかなぁ?」
「識っている……もの?」
「私たちと貴方方の違いが、それですか?」
「うん。多分ね。キミたちも識っていればきっとわかったと思うよ」
「それは?」
「精霊鳥」
三人は怪訝な顔をした。
「やっぱり聞いたことないんだ」
「それは種族なのか?」
「かつては、ね」
「かつて?」
「そう……今はもういなくなってしまった一族」
それが精霊鳥だという。
「どういう種族だったんだ?」
興味本位でグラキエースが尋ねた。
「精霊鳥は、紫色の鳥だよ」
「鳥?」
「そう、鳥」
「小さい……わけじゃないんだよな?」
一応確認する。
「ううん。かなり大きいよ」
そう言って体長を教えた。
聞く限りかなり大きい。
「私たち
「でも物凄く軽いよ」
「軽い?」
「うん。それだけの大きさがあっても小さな子供より軽いぐらいだから」
「そんなに!?」
「なんでそんなに軽いんだ?」
「う〜ん。精神体みたいなものだから」
「精神体?」
「うん。精神力の塊なんだよ。精霊鳥は」
「だから、重くないのか?」
「そう。マナがあれば食事しなくても生きていけるのが彼ら」
「ほぅ……それは、いいな」
「確かに、この世界では過ごしやすいだろうね」
「この世界では?」
物凄く気になることを言われた。
それを聞いた
「イセリアルでは、マナのあるところとないところの差が激しいから」
このディヴァイアほど環境が整っているわけではないという。
「ここは、そんなに恵まれているのか?」
「そうだね。恵まれているよ。ここは……最高の箱庭だから」
「箱庭?」
「まぁ……だからこの世界で精霊鳥が暮らすのには向いていてもイセリアルではどうかなぁ……場所により無理だし」
「そんなに違うものなのか?」
「ここで暮らしていたらわからないよ。きっとね」
恵まれているという。
だが、生まれてからずっとここで暮らしている彼らには
「その精霊鳥が、銀髪金眼の男だというのか?」
「ボクが見る限りでは。父様もそうだって言ってたし……間違いないと思うけど?」
「でも……彼はまだ生まれて五十年も生きていませんよ?」
「そうだね……それが不思議なんだけど……」
「何がだ?」
「精霊鳥は精霊鳥からしか生まれない」
「ん? 待て……それじゃあ――」
「何故、生誕したのかはさすがにわからないよ」
だが、彼は現実に存在する。
「それは本当に精霊鳥なのか?」
「間違いないと思うよ」
「精霊鳥とは、どんな存在なんですか?」
「物理攻撃が一切効かない。術も効きにくい。術の扱いが上手い」
それを効いた三人の表情が引き攣った。
「それ……無敵じゃ――」
「確かに、そう簡単に倒せないね」
「いや、どこをどう聞いても無理だろう? 物理攻撃も術も効かなくて何が効くんだ?」
「確かに……でも、それが精霊鳥」
効く限り弱点はなさそうだ。
「望まなければ触れることすらできない精神体。望めば刃をすり抜ける。だからこそ、効かない」
彼らを物理攻撃で倒すことは出来ない。
倒すためには術である必要がある。
それも、半端な術では駄目だ。
「弱点は、識らなければ使えないということと、マナがない場所で生きられないということかな」
「識らなければ使えない? 何をだ?」
「勿論透過だよ」
敵の攻撃をすり抜けるための能力は自分が識っていなければ使えない。
望まなければ触れない。
だから、識らなければならないのだ。
自分が何者であるか。
そうでなければ力は自らの能力となりえない。
「彼はまだ自分が何ものであるのかわかっていないようだった」
「それじゃあ……」
「今は使えないだろうね」
「……教えて差し上げなかったんですか?」
「アスモデウスには話したよ」
それは本人には話していないということだ。
「何故?」
「……大きな力は争いの中心となる。彼は………………間違いなく中心にいる」
その言葉を否定することは、三人には出来なかった。
「そして彼ほど重い物を背負っている者もいないと思う」
だから話せなかった。
識ってしまったら、もう戻れない。
「でも、それは――」
問題の先延ばしだ。
いずれ、識る時が来る。
「そうだね。この旅で彼は間違いなく自分が何であるか識る。そして導くだろう」
「導く?」
「彼は間違いなく、道を指し示すものだ」
「何の?」
「
「それは――!」
「彼はどれだけ時間がかかろうとも必ず辿り着く。この世界そのものであるあの方たちに……辿り着く」
「…………偶然です」
「……アシルエル?」
「彼が行くことになったのは偶然です」
確かにその通りだ。
「……世界は上手く出来ているよ。きっと、護られる」
滅びたりはしないだろうと、
「この世界には
――ボクたちのところと違って。
その言葉を
「それよりも、随分と厄介な男に目をつけられたようだね」
「厄介な男?」
いきなりそう言われてもわからない。
「そう。だって、この世界はドンケルハイトと繋がってる」
「オマエから見ても、そうなのか?」
「そう。この世界にあるのは、間違いなく、あの男が創った〈ミチ〉がある」
「知って、いるんですか? この世界に〈ミチ〉を繋いだものを?」
そう問われた
「……あれは、真のヤミを抱くモノ」
「真のヤミを……」
真のヤミ……言わずともわかる。
やはり、あれは
忌々しそうに舌打ちするグラキエース。
アシリエルも苦々しげな表情を浮かべた。
「
それが、あの壊すことも封ずることも出来ない〈ミチ〉を創ったものの名だった。
「知って、いるんだな」
「あれは……
「
「そう、呼ばれるね。彼が……ルビカンテが通った道は血に染まった大地と死体が積むと言われている」
実際に、あったらしい。
そんな悲劇が。
「
「――――!?――――」
「特定でいないからこそ、殺せない」
「殺せると……思わない方が良い。あれは、簡単に殺せるほど…………生易しい相手では、ない」
そして思い出される。
バール=ゼブルの言葉が――
『我らより確実に上だ』
その言葉が、酷く、重く、響いた。