――白聖界、
透明な煉瓦の敷き詰められた星空の世界。
浮いているような感覚になる。
草木はない。
だが樹の形をしたガラスのようなオブジェがそこかしこに置いてある。
ぺた。
クラウスが徐に触った。
「……生きて、る?」
「うそっ! これオブジェじゃないの?」
「……植物のようだ」
「へ、へぇ……変わっていますね」
「他の世界と様相がまるで違うな」
「ここが……
そして、気付く――
「なるほど……確かに、行けばわかる……か」
「うん」
「そうじゃな」
そんな三人の様子を不思議そうに見つめている
「あの……?」
あの存在に――
「向こうの方にね……圧倒的な存在感と力が存在してるんだよ」
「それって――」
「そう……間違いなく、それが……
「間違いようがない程の力じゃな」
「そうですか……やはり、彼らは凄い人たちなのですね」
「そうだね……なんせ、世界≠セから」
アスモデウスは額に浮かんだ汗を拭いた。
「心の準備が必要だね」
「うむ……確かに…………近づけば近づくほど圧倒されそうじゃ」
力を失ってからその感覚が消えてしまっている。
神妙な顔つきをしている二人から目を離し、横を見ると――
「クラウスさんは平気そうですね」
そう言われてクラウスは思った。
「そうだな……それは俺が
それにしては豪胆である。
「クーって、わかるんでしょう?」
何って、それは勿論彼の人物の力だ。
「ああ」
「わしらより感覚が鋭いのに……よく平然と――」
「そうだな……何故だろう」
クラウスは考え込んだ。
「確かに、凄い力を感じるんだが……そんなに怖い感じがとか、畏怖するほどとか、そう言った感じはしないんだよな」
その言葉にアスモデウスとレヴィアタンは引いた。
「嘘」
「…………」
クラウスは鈍くない。
むしろ、鋭い。
なのに……
「クーって……その…………神経太い?」
自分でそう言っておきながらアスモデウスはそれを否定した。
実際、クラウスの神経が太かったならば、過去を引き摺っていたり、夢に魘されて体調不良になることなど無いだろう。
ならば、何故――?
そんなふうに思いながらクラウスを見つめた。
「大物?」
そんな一言で済ませられるような状況ではなかったが、そう思った。
「まぁ……ここでこのようなことを話していても仕方なかろう」
「そうだね……会いに、行こう」
神妙な顔つきの二人。
それにあっさりと頷くクラウス。
居場所がわかる三人は迷いなくその方向に進んだ。
そしてしばらく歩くと――
突然、
「
冷や汗が出た。
その存在感は圧倒的だ。
よく見るとアスモデウスとレヴィアタンの顔色も悪い。
それほど凄い存在ということだ。
それなのに……クラウスだけは平然としている。
この存在感を感じても何も思っていないのだろうか?
力を失っている
次元が違うこの存在を――
何故、こんなに平然としていられるのか?
「もうじきじゃ」
「頑張ろう」
そう気合いを入れないと飲まれてしまいそうだ。
そして再び歩き始める。
彼の人物は、近い――
しばらく歩くと、小さな泉に辿り着く。
周囲にはガラスのような樹がたくさん生えている。
その泉の畔に――濃紺の髪に緑色の瞳をした青年が立っている。
彼は、ゆっくりとこちらを向いた。
圧倒的な存在感――
それが、彼から発せられている。
思わずアスモデウス、レヴィアタン、
いや、取らざるを得なかった。
それほどの存在だ。
それなのに、相変わらずクラウスだけは平然としている。
何故この空気の中で平然としていられるのか?
今はそんなことを考えていられるような状況ではない。
「君たちは、誰かな?」
静かな言葉。
だが、絶対的なその言葉。
逆らうことを許さない。
三人は恭しく名を名乗った。
勿論、クラウスも名乗った。
ただし、平然と――
「そう。僕は知っての通り……時を司るもの。ルネ=アーシェルト=ユーベルヴェーク」
彼はそう名乗り、そして一気にその威圧感が消える。
「ずっとこのままだと、君たちは辛そうだからね」
気を遣われたようだ。
だが、それは否定できない。
「それにしても――」
アーシェルトは懐かしそうに目を細めて、クラウスを見た。
その表情には、悲しみも混じっている。
クラウスにはそんなふうに見つめられる心当たりが全くなかった。
「よくここまで辿り着いたね…………箱庭の者たちよ」
「箱庭?」
「閉鎖世界ディヴァイア……我々はそこをそう呼んでいる」
確かに、その通りかもしれない。
あの世界は、閉ざされた世界だ。
畏まらなくていいと、アーシェルトは微笑んだ。
このままこうしているのも失礼なので頭を上げ、立ち上がり、姿勢を正した。
「それで、何の用かな?」
それを受け取ったアーシェルトは中身を見て、感慨深げに言った。
「なるほど。それにしても……レッドベリルの道具か……また随分と古いモノが残っていたものだね」
実物を見せて欲しいと言われ、レヴィアタンが恭しく
それを受け取ったアーシェルトの表情が曇る。
「また随分と厄介なモノだね。これは」
同じ
「残念ながら僕にはそれをどうにかするだけの力は無いよ」
「そうですか……」
「これはレッドベリルにしかどうにもできないね」
返された
「それで、フェナカイト=レッドベリル様は?」
アーシェルトはその問いに首を振った。
「彼は……マナがいなくなってから…………籠ってしまったから」
居場所はわからないという。
「そう……ですか――」
同じ
これではどうにもならないのではないか?
「でも方法はあるよ」
「辿り着く?」
「そう」
「それは――?」
「辿れば良い」
アーシェルトに言われた意味がわからなかった。
「辿る? 何を?」
「縁だよ」
「縁?」
「そう……僕とアウインと一緒にいるシェインエルは兄妹だからね。縁がある」
「その縁を辿れば良いと?」
「そう。二人のもとに着いたら、さらにアウインの縁を辿れば良い。そうすれば、レッドベリルに辿りつく」
アーシェルトは簡単に言った。
だが、そもそも縁≠ニいうものがわからない。
わからないものは探しようがないのでは?
そう思っていることが丸わかりな四人に彼は言った。
「縁≠辿ることが出来る種族がいる」
そんな目に見えないものを辿れるものがいるのか?
力を感じるよりも難しそうな事だ。
「その種族は遙か昔に途絶えてしまった種族だ」
待て、それでは探しようがないのでは?
そう思ったが、アーシェルトは首を横に振った。
「大丈夫。君たちは既に道を手に入れている」
アーシェルトは途絶えたと言っていなかっただろうか?
それなのに、一体それはどういうことだ?
訳が分からないと言った表情をしている彼らに、告げた。
「そう……君だ」
「はっ?」
アーシェルトはクラウスの頬に触れた。
そしてそう告げたのだ。
理解できない。
そう……理解できなかった。
……………………クラウスと
だが、アスモデウスとレヴィアタンには、心当たりがあった。
「君なら辿りつけるだろう」
何故、自分なのか?
唯の
どうしてそんなことを言うのか?
理解できない。
「何で――」
言葉が、漏れる。
「君が精霊鳥≠セからだよ」
アーシェルトが言った言葉が、クラウスに突き刺さった。
そして惑星神にされてきた数々の疑問がここに収束する。
重い、真実と共に――