警戒するベリアル達。
彼らの目の前でその闇は形を変え、人型になった。
「ドゥルガー?」
夜色の髪に真紅の目を持った魔族は現れたまま、黙っている。
「ちょっと、ドゥルガー?」
すぐに視線を戻してしまったが……
「相変わらず無口ね! 黙っていたってわからないわよ! あたくしはルビカンテ様じゃないんだから!!」
それでも黙っている。
イライラし始める
「遊んでる」
そして一言、言い放った。
「はぁ!? 遊んでいる? 誰が?」
「
余りにも簡潔なモノ言いに
「あ・た・く・し・の、どこが遊んでいると言うの!?」
「ここにいる」
彼は真っ向から
簡潔な彼の言葉は脳内で補足しないと意味がわからない。
「ここにいていけないというの?」
「うん」
彼はここにいる
「……あたくしはここの封印を外しに来たのよ? 立派な仕事だわ」
そんな言いがかりを否定する
遊んでいると思われたら堪らない。
しかし、ドゥルガーは首を振った。
「違う」
彼はあくまで彼女が遊んでいると言いたいらしい。
「何でよ!?」
さすがに頭に来る
「いつでも良いと言っていた」
「そうね。確かにルビカンテ様はいつでもいいとおっしゃっていたけれど、壊すのは早い方がいいでしょう?」
今できることは今やる方が良い。
後回しにすると何が起こるか分からないのだから。
そう思って言ったのだが、またもドゥルガーは首を振った。
「駄目」
「なんで――」
さすがにイライラしてくる。
無口なドゥルガーとの会話はかなり疲れる。
普通に喋ってくれれば簡単に理解できるのにと、
「今は駄目」
ようやく会話が進んだ。
「今は? 一体どういうこと?」
今でなければいいということだろうか?
「召集」
それを聞いた
「そ、それを早く言いなさい!!」
「今言った」
「くっ!」
ドゥルガーといつまでも会話をしていても始まらない。
「召集は、ルビカンテ様が?」
ドゥルガーはルビカンテの言うことしか聞かないため間違いなくそうだろう。
だが、念のために尋ねる。
「うん」
「こうしてはいられないわ」
「待たせるの、駄目」
「そんなこと言われなくともわかって――」
そう言い放って気付く。
「いつもは、そんなこと言わないわよね?」
ルビカンテの召集はいつものことだ。
特に時間に厳しいというわけではない。
なのに、何故?
「目覚めた」
「は?」
長い付き合いの
「誰が?」
「オルクス=マナ」
それを聞いた
「忌々しい敵の名じゃない。あれ、復活したわけ?」
「した」
それを聞いて舌打ちした。
「だから作戦会議な訳?」
「違う」
ふるふると首を振る。
「じゃあ、何で――」
「オルクス=マナ、
「それは……聞いたことがあるわね」
ルビカンテに聞いたのだ。
「オルクス=マナ復活。封印、解ける」
「封印……」
何の封印が?
だが、ドゥルガーはさらに続けた。
「封印、解けた」
その言葉でようやく気付いた。
彼が、何を言いたいのかを。
「まさか……
それにドゥルガーは頷いた。
顔色が変わった。
それは、今まで事の成り行きを見ていたベリアル達にとっても――
「待ってる」
バッとバリアル達の方を向いた
「今日のところは用事が出来たから勘弁してあげるわ!」
「ルビカンテ様、怒る」
「今、行くわよ!!」
ピシリと言い放つドゥルガーに怒鳴り返す
ドゥルガーは現れた時と同じようにどろりと形が解ける。
そして〈ミチ〉に消えて行った。
その後を追うように
何ともいえない沈黙が漂った。
「ここに残っていて良かったと、思うよ」
最初に口を開いたのは
「そうでなければこんな重大な情報を見逃すところだった」
「嫌な情報だがな」
「そうだね……最悪な状況だ」
かもしれないが、絶対に変化した。
「ボクはすぐに帰ることにするよ」
「忙しくなるな」
「そうだね……」
イセリアルは広い。
これからのことを考えるだけで眩暈がしそうだった。
頭が痛いのは
ベリアルたちも同じだ。
「バール=ゼブルに連絡を取らないといけないね」
「僕は神界に報告を――」
これだから辞められないのだ。
こういった重要事項を報告に行けるのは
「
苦笑いをした。
「無理……か――」
それを見たベヒモスが尋ねた。
「空間を移動するのに負担、かかるよね?」
「……はい」
高齢の
老化現象とは無縁の
知識としてはあるけれど。
「
「はい」
「僕は今スグに神界に報告に向かいます。後のことを頼みます」
「わかりました」
「ではこれで失礼させていただきますね」
「ああ」
一礼すると、
そして光が
ブォン!
キラキラとした光の粒子の残滓を残して
「では私も帰らせていただきますね」
「ああ」
「じゃあ、ボクもお暇させてもらうね」
パタパタと手を振りながらスッ――っと消えた。
何のモーションもない。
さすがにイセリアルで時空神をやっているだけのことはある。
こうしてこの場にいるのは
「じゃあボクはグリンフィールに連絡を取るよ」
「ん? 直接いかないのか?」
「それでもいいけど――」
無言で〈ミチ〉を見つめるベヒモス。
中から魔物や魔族が出てきている。
その数が尋常ではない。
「あの堕神のせいで〈ミチ〉が広がっちゃたでしょう?」
「忌々しいことにな」
「今まで以上にたくさん出てくると思うから」
それは見ればわかる。
「だから警備も増量するべきじゃない」
「……そうだな」
ベリアルが負けるとは思っていない。
しかし、他の
それになにより、数が多いと取り逃がす可能性が出てくる。
「世界に散ったら面倒だからね」
「確かに、そうだな」
「だからグリンフィールに連絡を頼むことにするよ」
魔物が出てきた。
それに伴って
何の命令も出していないのにキチンと仕事をこなしていく。
本当に出来た部下たちだ。
アスモデウスと違って。
「じゃあ行ってくるけど、すぐに帰ってくるから」
「ああ」
ベヒモスはそう言うとグリンフィールのいる冥界の門に向かった。