「いなくなってしまったね」
 ここは魂の中枢。
 それ故にここには何も存在しない。
 どこまでも真っ白な空間が続いているだけ。
 本来なら誰もいるはずのない場所に、彼はいた。
 大きすぎる存在であるが故に消えることが出来ず、ずっとここにいた。
 封印という名の死を選んだその後からずっと――
 何度生まれ変わっても変わらず魂の奥底に存在していた。
 オルクスの存在に気付く者はいなかった。
 同様に真王(しんおう)の存在にも気付かれなかった。
 だからこそずっと守られて来たのだ。

 封印は。

 しかし、長い年月の果てに綻びが生じた。
 オルクスの魂がとうとう精霊鳥としての力を強く宿し始めた。
 そして魔皇(まこう)族として生まれた彼は真の姿を精霊鳥とするほどの力を持ってしまった。

 封印は弱くなっていく。

 真王(しんおう)は生じた綻びから存在を確かなものにしていく。
 暗く淀んだ血生臭い夢として彼の前に現れた。

 彼を殺して自由になるために。

 彼を殺し、万が一オルクスが現れたとしてもそれはそれで構わなかったはずだ。
 オルクスが復活すればどちらにしろ封印は解かれる。
 最終的に自由になりさえすれば良かった。
 だからこそ、何度も何度も接触を謀った。
 だが何れも失敗に終わった。
 真王(しんおう)に接触し魘されている彼を起こしてくれる仲間がいたからだ。
 夢にいた意識体である彼の首を絞めて殺そうとした時も失敗した。
 リアが彼を起こしたからだ。
 オルクスのいるこの最深部の少し手前に真王(しんおう)はいた。
 暗く淀んだ世界を作り上げていた。

「封印は解けてしまった」

 もうどこにも真王(しんおう)はいない。

「永遠に続くものなどないとわかっているのに――」

 それでも永遠に封印出来ればと、何度思ったかしれない。
 本当は滅ぼさなければならない危険な存在。
 そうすることが出来なかったために封印という手段を選んだ。
 後悔はしていない。
 しかし、仲間を傷つけてしまった。
 行かないでと、やめてくれと、言われたけれど聞けなかった。
 譲れなかった。
 例え、仲間を傷つけることになったとしても――
 放っておくことなど出来なかった。

「自分を犠牲にしてまでやることではないと、そう、言われても、耐えられなかった」

 世界が壊れていくのを見るのは――
 人が死んで逝くのを見るのは――

 仲間たちが仕方ないと諦めても、オルクスには出来なかった。

 理解できない不思議なヒトだと言われた。
 何を考えているのかわからないと。

 仲間達には理解できないだろう。
 オルクスがどうして自らと引き換えにしてまで真王(しんおう)を封印しようと思ったのか――
 どうして、壊れていく世界を見るに耐えなかったのか――